認知症の人の気持ちとは?

当事者の声

私たちは、日々さまざまな不安や戸惑いの中で生きています

― どうか、私たちの気持ちに耳を傾けてください。
認知症と診断されると、まわりの人から「何もわからなくなってしまうのでは」「問題行動を起こす面倒な存在ではないか」と、決めつけられてしまうことがあります。けれど、私たちは何も感じなくなるわけではありません。心があり、感情があり、日々の変化に戸惑いながらも、懸命に自分を保とうとしています。

認知症の中でも多くを占めるアルツハイマー型認知症などでは、初期から中期にかけて「もの忘れ」が顕著になります。年齢を重ねれば誰でも少しずつ忘れっぽくなりますが、私たちの「もの忘れ」は、生活に大きな混乱をもたらすことがあります。思い出せないことが続くと、自分が自分でなくなるような不安に襲われます。そして、忘れたことに気づかないまま指摘されると、心は深く揺れ動き、つらくなるのです。

鍋を火にかけたまま忘れてしまったり、同じ物を何度も買ってしまったり、大切な約束を思い出せなかったり――。こうした行動のひとつひとつに、私たちは戸惑い、傷つきます。時には「しっかりして」と責められることもありますが、できなかったことを悔しく思っているのは、私たち自身です。

病気が進めば、できることが少しずつ減っていくのは事実です。でも、料理をしたい気持ち、家族の力になりたいという思い、一人で外に出て季節の風を感じたいという願いは、消えてはいません。それなのに「危ないから」「心配だから」と、何もかも止められてしまうと、自分の存在を否定されたように感じてしまうこともあります。

私たちは、ただ守られる存在ではありません。支え合いながら、自分らしく、社会の一員として生きていきたいと願っています。どうか、病気としての認知症を正しく理解し、私たちの思いに寄り添ってください。そして、私たちの中にある力や希望を信じて、一緒に歩んでください。