
私たちは、日々さまざまな不安や戸惑いの中で生きています
自尊心を保つということ―
認知症になってから、今まで当たり前にできていたことが、少しずつできなくなっていく――それは、とてもつらいことです。だからといって「もう何もできない人」と思われたり、決めつけられたりするのは、本当に悲しいことです。
たしかに、わたしたちは物事を順序立てて考えたり、直前のことを思い出したりするのが難しくなってきました。でも、心は以前と変わっていません。褒められればうれしいし、叱られれば悔しい。誰かの役に立ちたいという気持ちも、誰かと一緒に笑いたいという思いも、ずっとそのまま、胸の中にあります。
そんな私たちの気持ちを理解し、大切にしてほしいと思っています。
できないことが増えてきても、「できること」はまだまだあります。それに気づき、認めてもらえると、自信が湧いてきます。「あなたはまだこんなことができるんだね」「これ、助かったよ」と言ってもらえるだけで、心の中がパッと明るくなるのです。
記憶が曖昧になって、事実と違うことを口にしてしまうこともあります。そんなとき、「違うよ」とピシャリと否定されると、どうしてなのかも分からず、ただただ傷ついてしまいます。「怒られるようなことをしたの?」「自分が悪いの?」と、不安だけが残ります。
どうか、まずは私たちの言葉に耳を傾けて、「そうなんだね」と受け止めてください。大きな間違いでない限りは、そっと流してくれるだけで、私たちは安心できます。もし訂正が必要なら、やさしく、穏やかに伝えてもらえるとうれしいです。
ときに、私たちが声を荒らげてしまうことがあります。それは、言いたいことがうまく言葉にできなかったり、伝わらなかったりして、もどかしい気持ちが爆発してしまうからなのです。「自分のことをバカにされているのでは?」と不安になって、つらくて、苦しくて――。そんなときこそ、どうか私たちの立場に立って、「何がつらかったんだろう」「何を伝えたかったんだろう」と、一緒に考えていただけたら、とても心強く思います。
わたしたちは、尊厳を持って、今この瞬間を生きています。人としての誇りも、希望も、失ってはいません。どうかそのことを忘れずに、私たちに接してほしいのです。