認知症は心の病気ではありません

私たちは、ときどき「認知症は心の病気なんでしょ?」と言われることがあります。けれど、それは違います。認知症は、心ではなく脳の病気です。脳の細胞が少しずつ変化したり、働きが鈍くなってくることで、「思い出す」「判断する」「人を見分ける」といった知的な力がうまく使えなくなる状態です。

こうした変化によって、私たちは日々、戸惑いや不安を抱えながら暮らしています。記憶がうまくいかないこともありますし、時間や場所がわからなくなることもあります。でもそれは「心の問題」ではなく、「脳の変化」による症状です。

認知症には「中核症状」と呼ばれる、記憶や認識の力の低下のほかに、「BPSD(ビー・ピー・エス・ディー)」と呼ばれる行動や気持ちの面での変化もあります。たとえば、興奮したり、怖いと思ったことを妄想のように語ったり、眠れなくなったり、やる気が出なくなったりすることがあります。でも、これらは決して「性格の問題」でも「怠け」でもありません。ましてや「心の病」と決めつけられるようなものでもありません。脳の働きの変化が、私たちにそうした状態を引き起こしているのです。

私たちは、記憶力や判断力が落ちてきても、「感情」を失ったわけではありません。嬉しい、悲しい、寂しい、恥ずかしい、傷つく……そうした気持ちは、今もちゃんとあります。時々、「もう本人は何もわからない」「ぼけたら楽になるんでしょ?」と言われることがあります。でも、そんなふうに思われると、とてもつらいのです。私たちは、自分がどう見られているかも、周りにどんなふうに扱われているかも、ちゃんと感じ取っています。

だからこそ、まずは「認知症とは何か」を、正しく知ってほしいのです。家族や周りの方々が理解してくれることは、私たちにとって、大きな希望になります。そして、できることはまだたくさんあることを、一緒に見つけていけたらうれしいです。
私たちは、「心を失った存在」ではなく、これからも社会の一員として生きていきたいと願っています。