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地域カンファレンス in 長野 認知症の人の思いから始めるまちづくり

概要

ー クリップ 1 認知症の本人の思いを受け止めよう! ー

認知症について地域のさまざまな人たちがともに考える「地域カンファレンス」が、2016年10月12日、長野市で開催されました。会場では、2年前に認知症と診断されてからも生坂村で暮らし続ける牛越享子さん(83)の様子を映像で紹介。近所の人たちは、離れて暮らす牛越さんの息子たちとソーシャルメディアで連絡を取りながら牛越さんを支えています。「3人の兄弟でローテーションを組んで週末は実家を訪れるようにしていますが、ふだんの様子を見ていてくれるご近所さんのおかげで助かっています」と牛越さんの次男の竜夫さん。牛越さん本人も登壇し、「昔からの仲のいい友人たちに囲まれ充実しています。認知症になっても住み慣れた地域で暮らし続けたい」と話しました。
(09:36)

ー クリップ 2 認知症は生活機能障害と考えて補完できれば良い ー

認知症の人を支えるには、正しく理解することが不可欠です。かかりつけ医として認知症の人を診療してきた医師の村田志保さんは、認知機能が障害されることによって、今まで生活を組み立てていた時間軸が崩れ、地域とのつながりが切れるなど、「生活の障害」も起こってくると指摘。「これはご本人にとって混乱を招く事態。不安や焦燥、うつなどの症状が出てきますが、一方で周囲が上手に支えれば地域で生活していくことは可能です」と村田さん。村田さんと同様、地域で診療を続けている長崎忠悦さんも「食事や排せつといった基本的な生活機能が障害されるのは、認知症がかなり進行してからです。それよりももっと前の社会参加が難しいと感じた時点での受診が望ましいものの、自分ではなかなか異変に気づけません。早期発見は地域の課題でもあります」と訴えました。
(05:44)

ー クリップ 3 地域医療・介護の役割は、家庭と地域を繋ぐこと ー

認知症の人を介護する家族も大きな悩みを抱えています。2年ほど前から認知症の症状が現れるようになった藤原トミ子さん(91)は、転んで骨折し、一時期、寝たきりになりました。在宅医の診療やリハビリで立ち上がれるまでに回復しましたが、自宅の中の移動は転倒のリスクを考え、車椅子を使っています。息子の克弘さん(70)は、「歩きたい」というトミ子さんの思いにどう寄り添うべきなのか、悩み続けています。介護している人にしかわからない悩みも多い中で、医師の長崎忠悦さんは「認知症に関わるドクターは増えていますが、どうかかわるかはまだ熟成されていません。医療だけでなく家族が何で困っているのか、そこに思いが至るかどうかが問われています」と話しました。
(16:38)

ー クリップ 4 地域包括ケア〜世代を超えてみんなにできること ー

認知症の人を支えていくのは介護する家族や診療の場だけでは限界があり、介護や行政、地域住民が連携して行う「地域包括ケア」が求められています。長野県内で住民が中心となって行われている活動として、3つの事例を映像で紹介。介護施設が一つしかない小谷村では、地元の主婦らが中心になってNPO法人を設立し、介護予防や移送サービスなどに取り組んでいます。宅老所の解説もその一つで、認知症の人だけでなく高齢者の拠り所になっています。飯田市南信濃では高齢者同士の支え合いが進められる中で、さらに活動を広げていこうと「南信濃地域福祉プロジェクト」が立ち上がりました。南木曽町では、薬草を使った町おこしをスタート。当初メンバーはほとんどが高齢者でしたが、若者も参加。薬草を通して地元の良さを再発見し、世代を超えた交流が広がっています。
(17:13)

ー クリップ 5 地域は宝の山、お互い様からおかげ様へ! ー

認知症になると周囲は「何もできない」と決めつけてしまいがちですが、認知症の人から学べることはたくさんあります。今年3月に認知症と診断された仲岡道子さんは神奈川県で一人暮らしをしていましたが、小諸市に住む兄が心配して半年前に呼び寄せました。今は、認知症の人を含めた地域の人たちが集う認知症カフェで、ボランティアとして働いています。カフェを運営する藤沢さんは、仲岡さんが農家の人たちを撮りためた写真集を出版していたことに着目。藤沢さんの提案で、被写体となった小林さんを訪ねることになりました。かつて仲岡さんが撮影した今は亡き愛猫の写真を見せながら、「あなたのおかげ」と感謝する小林さん。仲岡さんはこれをきっかけにカフェに併設された宅老所の人たちの写真の撮影を始めました。地域の中で自分らしく生きようとしています。
(15:22)

ー クリップ 6 認知症本人の力と地域の力を信じよう ー

長野県では介護などの専門職はもちろん、地域の人たちも認知症に関心を持ち、自分たちにできることを模索する動きが広まっています。地域にとって大きな希望は、若い世代の中に、真剣に考え、行動する人が増えていること。地域の現状や取り組みを、SNSなど若い世代なりのツールを利用して全国に発信しています。ここ十年ほどの間に認知症に対する社会の認識は大きく変わり、多くの人が身近な問題として捉えるようになりました。地域の人はまず何をすればいいのかという問いに対し、認知症の人と家族の会の伝田さんは、「難しく考える必要はなく、ご近所の介護をしている家族に『毎日大変だね』と声をかけるだけで救われるのです」と答えます。地域やまちづくりは自分の人生を豊かにする――町永コーディネーターのそんな結びの言葉とともに、地域カンファレンスは閉幕しました。
(07:05)

【2017年1月13日公開】

出演者

村田 志保(むらた しほ)さん

JA長野厚生連 北アルプス医療センター あづみ病院 (長野県認知症疾患医療センター) 副院長

信州大学医学部卒業。同付属病院などを経て、イギリスモズレー大学留学。帰国後、2005年より現職。認知症の人の不安や焦燥に寄り添う医療を提供したいと考えている。

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長崎 忠悦(ながさき ただよし)さん

ながさき医院 院長

弘前大学医学部卒業後、信州大学などを経て、2001年に飯網町で「ながさき医院」を開院。北信もの忘れ支援ネットワークなどを通して地域で認知症の人を支える活動に取り組む。

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建石 徹(たていし とおる)さん

すきがら医院 院長

認知症サポート医、老年病専門医。かかりつけ医として、認知症高齢者を地域社会で支えられるよう、日常診療で留意している。

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伝田 景光(でんだ かげみつ)さん

認知症の人と家族の会 長野県支部 代表、NPO法人のぞみ 理事長

大学卒業後、青年海外協力隊としてパナマで活動。帰国後は、自動車部品工場に勤める。2003年にNPO法人のぞみを設立し、介護専門ではなく異業種出身の発想でお年寄り、地域の皆さんと向き合う。

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高山 さや佳(たかやま さやか)さん

NPO法人Happy Spot Club 代表

長野市生まれ。千曲市にごちゃまぜカフェをオープン。高齢者福祉、障がい者福祉、児童養護、地域を切れ目なくつなぐ、新しい福祉のスタイルの確立にチャレンジしている。

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樋口 綾(ひぐち あや)さん

鬼無里地区住民自治協議会 地域たすけあい事業 コーディネーター

7年前、結婚を機に鬼無里へ。右も左も分からない中、鬼無里地区の地域福祉を担当して5年目。嫁いだモンが踏ん張る鬼無里。"うちらがやらなきゃ誰がやる!?"

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藤沢 雅実(ふじさわ まさみ)さん

NPO法人ノア 常務理事

お互いさまの地域づくりを目指し、認知症支援だけでなく、地域のボランティア育成にも注力。今年4月より認知症カフェ「相生テラス」開設、地域生活サポートネットワーク「ユメオイビト」を創設した。

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細澤 幸恵(ほそざわ ゆきえ)さん

NPO法人安心生活支援こごみ 事務局長

小谷村生まれ。社協でボランティアコーディネーターとして働いた経験から、年をとっても生きがいを持って暮らせる村にしたいと、NPO法人を設立。コミュニティケアに力を注ぐ。

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湯通堂 ちか子(ゆつどう ちかこ)さん

南木曽薬草の会 代表

南木曽町生まれ。昔から健康の維持に薬草を用いてきた故郷の伝統を活かして、薬草栽培による高齢者の生きがいづくり、遊休農地の解消に加え、地域活性化を目指して活動中。

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阿部 今日子(あべ きょうこ)さん

まちの放送局ディレクターズクラブ 代表

大阪生まれ(ラテン系関西人)の新宿・横浜育ち。長野に来て20余年。ひょんなことからNPOの世界に足を踏み入れ、社協に勤めて8年半。今は寝ても覚めても地域福祉の毎日。

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原 章(はら あきら)さん

飯田市健康福祉部長寿支援課 課長

認知症の高齢者などの権利擁護を進めるべく、成年後見支援センターの開設に従事。現在は、在宅医療と介護の連携を促進するための具体策の取りまとめに当たっている。

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町永 俊雄(まちなが としお)さん

福祉ジャーナリスト

1971年NHK入局。キャスターとして教育、健康、福祉といった生活に関わる情報番組を担当。現在はフリーの福祉ジャーナリストとして活動を続けている。

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