体験談〜本人の声、家族の声〜

認知症の人と家族の会 
会報誌「ぽ〜れぽ〜れ」

2024年3月号(524号)

ー お便り紹介 ー

どう接するのが正解か?神奈川県・Dさん 女

コロナが流行り始めた頃、母の中で子どもが急に2人に増えたり、娘の顔を叔母や父親と思い込んだり、明らかに何か問題はあるのに、初めて受診した病院で細かい検査をするも異変が見つからず、服薬だけで2年くらいただ病院に通うだけの日々。
先が見えず近所のケアプラザに相談して違う病院を教えてもらい、転院して受診して初めてもの忘れの診断をうけました。そこから一気に介護認定の申請をしてケアマネジャーさんがついてくれました。
母は元気にハキハキしてるものの何が食べ物か認識もできなくなっていたり、真夏にエアコンで暖房をつけてしまったり、生命的に危険な域に入ってしまったのでグループホームにお引っ越ししてもらい、今は週一回、私がホームへ会いに行っています。
適度な距離ができたのは良かったのですが、それでも気分の波はたくさんあるのでどう接するのが正解か迷うことが多く、いろんなヒントをいただけたらと思っています。

亡き母に感謝!岡山県・Fさん 女

認知症になった実母が亡くなって22年経ちました。一緒に暮らした1年間とその後グループホームでお世話になった6年間に悩みは尽きませんでした。でもいろいろな方たちや施設に助けられ無事見送ることができました。今はその経験を友人たちに伝えられ嬉しく思っています。
現在認知症のご家族を抱え、日々頑張っている友人、知人の悩みを聴いてあげられ、少しのアドバイスが出来ることに、母が居てくれたからこそと感謝しています。

経済的な事が悩みです新潟県・Gさん 女

能登半島地震で私の住んでいる新潟市でも液状化の被害がひどい所もありましたが、同じ新潟市でも私の住んでる所は液状化もなくて家にヒビが入りました。自然災害があると在宅介護している私は避難出来ないなって思いました。こういう時、特養に入所していたら大丈夫なんだろうなって思います。要介護5・寝たきり・アルツハイマー型認知症の母を在宅介護しています。特養には申し込みしていますが順番がまわって来ません。特養に入所したらラクになるかって言われたら経済的な悩みも出てくると思います。母は減免の保険証を持っていますが特養に入所している最中に体調崩して入院になったら特養の料金と入院代と重なるので、先ほども書きましたが経済的な事が悩みです。在宅介護していたら、いつ迄在宅介護が続くんだろう(介護はいつ迄も続かないのはわかりますが)、特養に入所したら、いつ迄支払いが続くんだろうって思います。娘の私も生活がありますし。

ー 私の介護体験談 ー

認知症の人の「本当の願い」静岡県支部

当てずっぽうの10年

前頭側頭型認知症の夫(63歳)を介護しています。言語の意味が薄れ、言うことがアテにならない夫ですが、それでも10年近く介護していて確信を持てたことがあります。それは、言葉で言えなくても「この人にはこの人の願いがある」ということです。
以前に「笑顔が一番」などと申し上げました。しかし今思えば、笑顔は結果の一つに週ぎません。当てずっぽうが当たった時、「正解だ」とわかるだけ。10年も無数の当てずっぽうをやってきました。
世間の人は大きな誤解をしています。「認知症の人がかける迷惑に我慢して、面倒を看てあげるのが介護者」だと思っていますが、本当は逆なのです。「本当の願い」が何なのかもわからない無理解の人たちに付き合わされて、ずっと迷惑しているのは夫のほうなのです。

夫の心が動くとき

現在、夫は症状が進み、以前のような困った周辺症状は少なくなりました。言葉は益々意味をなさなくなり、外界への関心が減っています。何とかやる気を出させたいと声掛けしても反応は薄いです。そんな夫がやる気を見せたり、関心を寄せて釘付けになることがあります。サッカーの練習をする子どもたち、祭りで踊り歌う若者たち、応援団やブラスバンドなどを見続けるのは病気の症状かもしれません。しかし、人々の一生懸命な姿が夫の心を動かしているのは間達いありません。実際、言葉でいくらおだてるよりも、ヤル気のあるお隣さんがブン回している方が、ゴルフの打ちっ放し練習にも、野球のバッティング練習にも熱が入るのです。旅行にしても、予定通りの安心安全なツアーより、アクシデント満載の手作り旅行の方が私の必死さが伝わるのか夫の表情は豊かになります。
これについて、ある逸話を思い出しました。約800年前にローマ帝国で行われた実験の話です。50人の赤ちゃんを集めて、お世話は完璧にするが一切話しかけても笑いかけてもいけない、というもの。そうしたら言葉の習得はどうなるのかという実験でしたが、結果は赤ちゃん全員が死亡。この逸話は子どもの成長には愛情やコミュニケーションが重要なのだということの裏付けとして取り上げられています。しかし私はこの実験の警鐘として、こう付け加えたいです「心を動かさなければ、人間は死ぬんだ!」と。

心を動かすことこそ「願い」

身体を動かさないと死に繋がる廃用症候群は有名ですが、同様に心にも廃用現象があるのだと思います。たとえ身体介護は完璧でも、心を動かす介護を省みなかったら、本来の宿命以上にどんどん認知症は進行するのではないか?赤ちゃんから老人まで人はすべて心を動かしたいと願っています。もう言葉や笑顔に頼らない、惑わされない、この目的に向かって進むことだ。そう思うと何だかスッキリしました。
目の前のことに一生懸命な「人間の本気」に触れる時、夫の心は動き、輝いているように私には見えます。よく言われる「認知症になっても安心して暮らせる地域」とは、それが常に可能な地域なのでしょう。その実現のためにも、皆様のご協力を得ながら、夫の心を動かす試みを続けていきたいと思います。

※ 会員様からのお便りを原文のまま掲載しております。