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オレンジ色を灯せ 〜世界アルツハイマーデーに寄せて〜

コラム町永 俊雄

▲ 全国各地のオレンジのライトアップの様子。単なるイベントを超えて、「認知症」がこの社会の灯りとなる力を放っているようだ。「認知症」は誰もが自分たちの力とあゆみと、そしてともしびを持ち寄って、そうして社会を確かに動かそうとしている。そんな段階に入りつつある。

あなたは今年(9月21日)のアルツハイマーデーのオレンジのライトアップを見ただろうか。

横浜では、港ヨコハマのジャックの塔、横浜市開港記念館が、大観覧車がオレンジ色に染まれば、全国の名城、姫路城、金沢城、広島城、松山城が歴史の彼方から未来に向かってオレンジの鬨(とき)の声をあげ、佐賀県庁だって、茨城のイオンモールつくばだって暮らしの賑わいの中で、また東京では損保ジャパンや東京海上日動火災のビルも、ほんの少しの思惑も交えてオレンジ色に染め上がった。(なんせ全国50か所近くで行われた。この他にもたくさんあったのはいうまでもない)

なんで、オレンジ色なのかって。そういえばオレンジリングもそうだ。私も知らない。で、調べました。
それはかの陶工柿右衛門の赤絵磁器からきておる。あの夕暮れの柿の深くて豊かな柿色を苦心の末再現した柿右衛門の赤絵は大いに世界を驚かせ、日本の磁器が世界に輸出されることになったんだって。知ってた?
「ボーッと生きてるんじゃねえよ」

それはともかく、で、オレンジを認知症のシンボルカラーとして日本から世界に発信していこうという意味があるのだそうだ。
ホントはピンクにしたかったのだが、ピンクはピンクリボンで使われているし、ブルーは、ライトアップすると彦根城が氷漬けのように見えるから(アナと雪の女王じゃあるまいし、とかで)やめたんじゃないか、という気もしないでもない。

それはともかく、結果としてオレンジの色はいいなあ。暖かくぬくもりを感じる。色彩工学研究所によれば、オレンジ色は、かたくなな人の心の壁を溶かすようにして通過し、誰もの胸の奥深くにジンワリと届く波長なのだそうだ(私のデタラメ)。

ライトアップには多くの人が集った。
「認知症」が暮らしの中で、誰もの思いの中で、自分の言葉で語られる。そのこと自体に私は少しく感動する。あの日、あの夕、認知症の親や仲間と一緒に、手を引き、語り合いながらライトアップに集った人々の思いと力の確かさを想像する。
その思いがあの時全国同時に、豊かな実りの柿の色に染まったライトアップを見上げたのである。いや、そうした思いの集積があのオレンジ色を灯していたのだ。

もちろん、国や地域行政の大きな枠組みの中で、認知症はきちんと語られなければならない。その通りだ。しかし、その枠組みの中を満たすのは、つらく困難な中でつながった小さな物語の大きな思いと願いでなければならない。
そして、あのオレンジのライトアップは、認知症だけのためではない。全てのつらさと困難の中の人のために灯せ。

ライトアップの集いから離れて一人で見上げているあなた。見上げるうちにオレンジの光が涙に滲む。そんなあなたのためにオレンジ色の光が灯っている。あなたのつらさに遠くからでも呼びかけるために。
そして、そんなあなたの存在と小さな声が、今度はきっと、一つのともしびとなって世を照らすだろう。あなたは、涙をぬぐい顔を上げ、自分というともしびを手で囲って、いつか、あの集いの仲間に向かってそっと歩み出す。
その日のために、ただひとりのために、オレンジのともしびを灯せ。

子供たち、働き盛りのあなた、高齢の人達。
不登校であったり、子育てに悩んだり、障害や病いの中にある人々。その人々と共にオレンジのライトアップがある。「ひとりじゃない」ことのぬくもりのためにライトアップがある。つながり分かち合うために。
世界アルツハイマーデーは、そんな日であってほしい。

「一隅を照らす」
叡山を開いた伝教大師の言葉と伝わる。
全国の名もない人々、認知症の人々が灯すオレンジのライトアップ。それはいかに華やかで大掛かりであっても、そこには常に「一隅を照らす」思いが満ちている。
世の、ほの暗い一隅にかがみ込む人々をそっと照らす。そこにうずくまるのは、かつてのあなただ。
暗闇から小さな明かりの中へと、穏やかに招くようなぬくもりのオレンジの光で、あなたは、ただ、
「一隅を照らす」。

●世界アルツハイマーデー

「国際アルツハイマー病協会」は、世界保健機関(WHO)と共同で毎年9月21日を「世界アルツハイマーデー」と制定している。


|第82回 2018.10.2|

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