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同行二人

コラム町永 俊雄

四国の認知症グループホームの大会で徳島に行ってきた。
思うに、四国には福祉の原点があると思う。あの東京オリンピックの招致ですっかり有名になった「お・も・て・な・し」だって四国遍路でのお接待がその源流だろう。お接待こそ、道行く人への共感と想像力の無私の思いなのだ。そして、お遍路さんは決してひとりではない。いや、たとえひとり巡礼していようとも、それは「同行二人(どうぎょうににん)」と言われ、常に弘法大師が寄り添っていてくれているのである。
人はひとりではない。あなたの人生には常に寄り添い、支え、導く人がいる。それはどんなに心強いことだろう。
認知症フォーラムで、いつも寄り添う医療とケアの話し合いをしている立場としては、しみじみと感じるいにしえの人の叡智である。

その大会でのテーマとしてグループホームの介護職による地域連携の報告があった。愛媛県伊予市のあるグループホーム、9年前に出来た時には地域になんの縁もゆかりもない中でのスタートだった。
地元の人からは「何ができるんや」「姥捨て山ができるらしい」と言われながらの活動だった。なにから始めたらいいのか。とりあえず、ひたすら「挨拶」したという。行き帰りの車はゆっくりと走らせ、車窓から笑顔で「挨拶」して手をふった。田畑に出ていると聞けば、わざわざ散歩の振りして出会いを求め挨拶を重ねた。そうしてやっと玄関先で言葉をかわしたり、お茶したりするまでにこぎつけた。
でも難関があった。よりによってお隣さんのおいちゃんだった。
「車の止め方が悪い」「うるさい」「排水口が詰まった」事毎に文句をつける怖いおっちゃんだ。でも、めげなかった。それだからこそより積極的に、偶然を装ったりして出会いを作り、笑顔の「挨拶」大作戦を続けた。まず、おばちゃんと仲良しになって、話しこみ、野菜のおすそ分けをしたりで、やがて家族同然になって、そのおいちゃんが今度は他の地元の人にこのホームの説明を買って出てくれるようになった。ホームにとって一番の理解者、協力者であるばかりでなく、グループホームの職員と一緒に釣りに行ったり川ガニをとったりして遊んでくれた。かけがえのないおいちゃん。

そのおいちゃんが一昨年12月に亡くなった。最期まで「楽しかったな。ここが出来て本当に良かった。おばちゃんを頼む」スタッフに囲まれて、そう言っておいちゃんは逝った。
報告の最後は、そのおいちゃんの写真だった。
「おいちゃん、ありがとう」そうして報告が終わった。報告の声は最後は少し震えていた。
同行二人。地域の福祉の力がつながった四国での話。

|第12回 2014.3.18|

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