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認知症の壁をとりはらう

コラム町永 俊雄

▲ 左からフィリー・ヘアーさん、 認知症当事者、丹野智文さん 、町永俊雄氏

6月にイギリスから認知症の研究者が相次いで来日した。エディンバラ大学のヘザー・ウィルキンソンさん。そしてジョゼフ・ラウントリー財団のフィリー・ヘアーさんだ。短い滞在だったが、おふたりとも大変精力的に各地の認知症当事者、関係者と交流し話し合いを重ねた。
私はフィリーさんとは、日本の認知症当事者ワーキンググループのメンバーや支援者とともに話し合いの場を持った。
彼女の経歴はとても多彩だ。このあたり、日本と違って自分で活躍の場をかるがると移動しながら自身のキャリアを積み上げている。まずはソーシャル・ワーカーの立場でNHS(イギリスの国民健康保険サービス)、自治体、ボランタリーセクターなどなどで高齢者ケアを実践。現在のジョゼフ・ラウントリー財団ではプログラム・マネージャーとしてイギリスの高齢化社会のプログラムを監督している(相当はしょっているが)。
研究者であり実践者であり管理者でもあるので、マ、エライのだ。影響力のある人だ。でもね、実は、フィリーさんはウルトラマラソン(なんと100キロを走る)にも出場するスポーツ愛好家、日本滞在中にもランニングは欠かさなかったらしい。とにかく気さくでハッピーな気分を振りまく研究者だった。

なぜ、イギリスからヘザーとフィリーが相次いでやって来たのかというと、去年の11月に、世界初の認知症当事者グループを作ったジェームズ・マキロップさんをスコットランドから招いてフォーラムを開いた。私もそのコーディネーターを務めた。そのジェームズを見出し支えたのが(この場合のサポートのあり方も従来型の支援ではなく当事者を主体とする新たなパートナーシップを探り当てたとされる)、ヘザーとフィリーだった。
ジェームズがイギリスに帰国して日本での反響を伝えると、ふたりとも日本の認知症をめぐる状況に強い関心を持った。ならば、行かなければ、ということでお二人が来日したのだ。この行動力にも驚く。
二人の日本での交流、発言のひとつひとつがとても大きな意味を投げかけたのだが、ここではそれを記す余地が無い。ただこのコラムではこのことを指摘したい。
とかく「認知症」というと国内問題としがちだ。しかし、これまでも認知症サミットでは先進各国の課題としてきたし、また来年は京都でADI(国際アルツハイマー病協会国際会議)が開かれる。
今回のお二人の来日は、日本とイギリスとの間での認知症当事者とそこに関わる人々による新たな草の根的なスタートになる可能性がある。それは認知症の研究者が現実の当事者活動に深く関わることを促すだろうし、世界的な活動に日本の当事者も参画していく道が拓けていくかもしれない。
実際にこれをきっかけに、日英での認知症をめぐる共同研究や、認知症当事者、丹野智文氏がスコットランドへの訪問し、現地の認知症当事者と交流する事ができないかといった話が生まれているのだ。

日本とイギリスの間で、何かが生まれていくといい。
「認知症の壁をとりはらう・dementia without walls」これはフィリーが今進めている財団でのプログラムだ。当事者との様々な関わりの中から生まれている。「認知症にやさしい社会」の次の扉を開くような具体的で力強いメッセージだ。なによりここにはよりよい社会に向かっての確信がある。
世界は認知症の「次の時代」に向かって踏み出している。私はそう思う。

▲「認知症をとりはらう」のホームページ
http://dementiawithoutwalls.org.uk

|第29回 2016.6.20|

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