実はこのコラムでも5年前に「認知症の予防」について記している。今や認知症国家戦略のもと、認知症当事者の発信が続き、 全国で地域包括ケアシステムが構築され、「認知症にやさしい社会」へと、世の認知症をめぐる環境は大きく変化しているのに、 ドッコイ、「認知症の予防」については相変わらず赤ワインで認知症予防、なのだ。
以前、ある地方に講演に呼ばれた時に、そこの町長さんが「今後も認知症撲滅に取り組んでまいります」と挨拶したのには、のけぞった。撲滅だぜ。
地方に行くと、今なお「認知症の予防月間」といった取り組みが多い。地域の高齢福祉課が主催でこうなのだ。担当者によれば「認知症予防だと集客力が違います」だそうだ。 やれやれ。その間、地域の少なくない認知症高齢者は、家にひっそりと閉じこもっているのだろうか。
いやね、誰だって本音では「認知症になりたくない」と思うその素朴な心情を封殺する気はさらさらない。関心も高いのもわかる。が、言うまでもないが結論的に言えば「現在こうすれば認知症にならない」という方法はない。 しかし、「どうすれば認知症になりにくいか」ということは少しずつわかってきた、ということなのである。
では、どうすれば認知症になりにくいか、ということに関しては端的に言えば「健康的な生活を送りましょう」に尽きる。
認知症専門医によれば、「認知症リスクとしては高血圧や糖尿病、動脈硬化などがわかっているから生活習慣病の予防が効果的であることは確かである」という。だからあたりまえの「健康的な生活」が何よりというわけだ。 しかし、とその専門医は続けた「認知症の最大のリスク要因はエイジング(加齢)です。だから高齢化にともなって、認知症が増えるのは当然」と。
老いは防ぐことは出来ない。しかし備えることが出来る。今やこのことが認知症予防を考える視点である。残念ながら現時点では認知症の根本的な治療法はない。 しかし「認知症になった人は人生の敗残者」、とは誰も言えないはずだ。
世界一の認知症国家のこの日本で、認知症の不安を煽り立てるようにして「認知症予防」を言いつのることがあるとしたら、それは「認知症と共に生きる社会」への転換をひたすら先送りにさせることにつながりかねない。 今「誰もが認知症になる時代」と言われている。そのことが共生への道筋ではなく、恫喝の響きを持って使われ、その延長線上に「認知症予防」が置かれるようなことがあってはならないだろう。
「誰もが認知症になっても生き生きと暮らせる社会」の構築こそが、最大の「認知症予防」なのである
| 第22回 2015.9.28 |