認知症EYES独自視点のニュース解説とコラム
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「祭り」を創ろう

コラム町永 俊雄

▲ 和歌山県有田川町の「認知症になっても安心して暮らせるまちづくり」のポスター。下に並ぶ「認とも」の活動のいろいろが、いかにも地域の生き生きした姿を浮かばせる。

お祭りが盛んなところは地域が繁栄している証と言われる。
祭りには、人手と財がいる。だから地域の造り酒屋、木材や水産、豪商などが、それを担った。商いはその土地と乖離しては成り立たない。祭りは地域への大きな求心力を生む。郷土愛が育まれ、祭りのしきたりは世代を超えて受け継がれ、伝統となり、高齢者、子供も含め、地域の誰にも役割を提供する。祭礼の日、老若男女が集い、飲み、歌い、語り合い、そして地域の力が更新されていく。
今、地場産業は衰退し、若者は流出し、一つの学校が閉鎖されれば、子供達の声と姿が一瞬にして消える。高齢者だけが取り残されて、かくして、祭りの賑わいとお囃子は途絶えた。
「地域包括ケアシステム」「共生社会」、不安と怯えの中でしか描けない少子超高齢社会をどう持続可能な社会へつなげていけばいいのか。高齢者が増えるということは認知症の人も増え続ける。あまりに重い現実に語り合う人々の眉間には深いシワが刻まれ、ため息だけで議論が進まない。
なぜか。そう、ここには心弾む「祭り」がない。
それなら、「祭り」を作ろう。自分たちの暮らす地域を舞台に、子供から高齢者、認知症の人も誰もが参加でき、思い切り楽しくて笑顔が約束される、そんな「祭り」を作ろう。そこに生まれたのが「ラン伴」だろう。「ラン伴」はシンプルなタスキ・リレーだが、実際に開催するまでには実行委員会を立ち上げ何度も話し合いを重ねることが必要だ。祭りの準備は時間も手間もかかる。実はそれが地域を変える力に繋がっていく。たくさんの認知症の人が参加して一緒に走ることで、自分で自分が変わっていくのが走る風の感触のように受け止められる。誰かからいくら「我が事・丸ごと」と言われてもピンとこなかったことが認知症の人との一歩一歩で確信に変わっていく。大好きな自分の地域をみんなと走っていく。
和歌山市で「地域まるごと健康フォーラム」というまちづくりフォーラムを開いた。ここでの有田川町の取り組みはさらに踏み込んだ。ここでは地域包括支援センターが生活支援コーディネーター、NPOなどと協力し、より認知症のメッセージを盛り込んでその名も「認とも〜認知症と共に生きるまちづくり〜」としてイベントを開催した。住民、ボランティアがびっくりするほど参加した。なんたって地域の「祭り」なのである。これに味をしめて(いい意味です。もちろん)、有田川町では、さまざまな「トモ」活動が生まれた。いわく、「活とも」「声とも」「まちとも」「読とも」などなど。例えば「声とも」は、認知症の人や家族の声、思いを伝えていこうというもの。「読とも」は、最近の認知症の人の書いた本を一緒に読んだり、紹介していこうというものだ。軽やかに緩やかにたくさんの人が関わりながら、「自分たちの地域」という意識を当たり前に感じ取っていく。有田川町の地域包括支援センターの辻合竜也さんは、「やりたいことはなんでもやってみよう」が、みんなの合言葉と微笑む。
そうはいっても地域には厳しい現実がいくつも横たわる。認知症をはじめとして、介護、高齢化、雇用、少子化、子育て、産業。
でもね、まずは地域が生き生きとしなければ、何も始まらない。どうしようもなく重苦しい地域の上には何も乗らず、生き生きと笑顔あふれる地域には、さまざまな取り組みの希望と道筋が見えてくる。
祭りを作ろう。自分たちの地域の祭りを、自分たちで。

▲ 「ラン伴 RUNTOMO」公式ホームページより。「認知症の人と一緒に、誰もが暮らしやすい地域を創る」をコンセプトに2011年から全国に開催活動が広まっている。あなたの町では開催されただろうか。

|第57回 2017.11.15|