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フォーラム超高齢社会を生きる in 仙台〜認知症の人の思いから始めるまちづくり〜

概要

ー 【基調講演】老いと認知症〜予防と共生を考える〜 ー

2019年11月4日、宮城県仙台市で「フォーラム超高齢社会を生きる」が開催されました。
冒頭は、「老いと認知症〜予防と共生を考える〜」と題した、東北大学加齢医学研究所老年医学分野教授の荒井啓行さんによる基調講演です。
荒井さんは高齢化社会の進行とともに認知症の人が増加し、中でもアルツハイマー病が多くなっているなど、認知症の現状を紹介。「認知症の予防と共生が求められている」と強調しました。
荒井さんが認知症の危険因子に挙げたのは、中年期は「肥満、高血圧、難聴」、高齢期では「糖尿病、社会的孤立、運動不足、抑うつ、喫煙」です。
認知症予防の具体策として、「たくさん歩いた人のほうが認知症になる人は少なかった」という論文を引用しながら、運動を推奨。さらに「実は一家だんらんには認知症の予防効果があるのではないか。近年は一家だんらんの機会が少なくなったことも、認知症の有病率上昇の一因だと考えています」と推察しました。(7:13)

ー 認知症だからできること パネルディスカッション 第1部(前編) ー

第1部では「認知症だからできること」と題したパネルディスカッションが行われました。
パネリストとして登壇したのは、認知症当事者の丹野智文さんと鈴木理さん、医師の山崎英樹さんです。
丹野さんは、認知症と診断されて不安だった時に同じ認知症の仲間に励まされ不安が解消した経験から、認知症の本人だけが集まってとことん話し合う場として「おれんじドア」を開設しました。
「認知症の人に最初の一歩を踏み出してもらうための場所。元気になった人がいっぱいいます」と丹野さん。さらにおれんじドアに行きつかない人たちのために、病院で不安を持った当事者と元気な当事者が出会う仕組みも作りました。
丹野さんのこうした取り組みについて、医師の山崎英樹さんは「認知症になるとさまざまなことをあきらめ自分にふたをしてしまいがち。当事者同士であれば、専門職や家族と向き合う時とは違う顔を自由に出せる、生きる力を取り戻す場になっているように感じます」と評価しました。(5:46)

ー 認知症だからできること パネルディスカッション 第1部(後編) ー

パネリストの一人、鈴木理さん(45)は、3年前に認知症と診断されました。
現在は、名取市にある特別養護老人ホームで障がい者雇用枠の介護職員として働いています。「認知症になってからは入浴やトイレ介助が難しくなるなど、できなくなることが増えたけれど、働き続けたい」と話す鈴木さん。
勤務しているホームの認知症の利用者に対して、「認知症になった自分だからこそできることがあるのでは」と考えて声をかけ、気持ちが通じ合う経験を重ねています。
「認知症の当事者は、認知症という障害を生きる経験者であり知恵そのもの。そこで磨かれた人間性が、相手の心を開くことにつながっているのでは」と山崎医師。
「最初の頃は認知症の人は何もできなくなる人たちだと思っていた」という鈴木さんですが、「認知症の人と接する中で、むしろいろいろなことができる人もたくさんいるということに気づかされました」と話してくれました。(7:52)

ー 地域にできること〜共生を目指して〜 パネルディスカッション 第2部 ー

パネルディスカッションの第2部は「地域にできること」がテーマ。
多賀城市では、認知症対策の一環として、12軒の認知症カフェを運営しています。認知症カフェは地域の人と当事者の交流の場でもあり、そのためのイベントも開催されています。
ディスカッションの冒頭に、認知症カフェで開催された「さんま祭」と、認知症と診断された一人暮らしの男性の様子を映像で紹介。さんま祭りを企画した多賀城市地域支援相談員の沼倉亜紀子さんは「地域住民に日常の場面での理解を深めてもらいたい。認知症のある人も、地域住民の一人としてかかわってほしい」と訴えます。
一方、認知症の人と家族の会の高橋タミ子さんは「認知症の人が生き生きと生活するには、地域の人の助けは欠かせない。ただし『どのような形の助けが必要なのか』『助けが行き過ぎていないか』を見極める難しさもある」と語りました。
この意見を受けて医師の山崎英樹さんは「周囲は役割を持たせることを押し付けてしまいがち。役割を持つか、持たないかを決めるのはあくまでも自分自身」と話しました。(7:10)

ー 家族の思いに寄り添うために パネルディスカッション 第2部 ー

認知症の人と家族は、介護される側とする側という関係になりがちです。第2部では「家族」にスポットを当てたパネルディスカッションを開催。
6年前に認知症と診断された高橋ケンイチさんと介護をする妻のタミ子さんの様子を紹介しながら、当事者と本人の関係について話し合いました。
ケンイチさんが自由に動けるように寄り添ってきたタミ子さんは、介護する自分にストレスがかかっていると自覚しているとのこと。「介護される側にゆとりがないと、結局いい介護ができない。自分の時間も確保できたら」と打ち明けます。
「適度な距離感が必要。お互いに自分のことを考える時間を確保するのは大事なこと」と認知症当事者の丹野智文さん。
多賀城市地域支援相談員の沼倉亜紀子さんは「本人への支援が中心で家族への支援が充実していないのが実情。認知症の人に寄り添うという一方通行ではなく、人と人とが寄り添いあえるような地域を作っていく必要がある」と語りました。(8:44)

出演者

荒井 啓行(あらい ひろゆき)さん

東北大学加齢医学研究所 老年医学分野 教授、東北大学病院 加齢・老年病科 科長

群馬県出身。1980年東北大学医学部卒業。1987年米国ミシガン州立大学留学、1988年米国ペンシルベニア大学留学。1994年から東北大学病院において認知症診療に携わる。2003年東北大学大学院医学系研究科先進漢方治療医学講座教授。2008年東北大学加齢医学研究所老年医学分野教授。2016年第6回日本認知症予防学会学術集会会長。2019年第61回日本老年医学会学術集会会長を務める。

丹野 智文(たんの ともふみ)さん

おれんじドア 代表、一般社団法人認知症当事者ネットワークみやぎ 代表

39歳のときに認知症と診断される。認知症当事者の一人でも多くの方に前向きになってほしい、認知症=終わりではないことを知ってほしいと願い、認知症当事者が同じ悩みを抱える当事者の話を聴くための窓口『おれんじドア』を開設。常に当事者のために何かできることはないかと考え、講演活動などに力を注いでいる。新オレンジプランについて政府要人と意見交換や雑誌などで対談も行った。今年、『認知症当事者ネットワークみやぎ』を立ち上げ、当事者が活躍できることを応援する活動をしている。

鈴木 理(すずき おさむ)さん

社会福祉法人みずほ 特別養護老人ホームうらやす 介護職員

七ヶ浜町在住。2004年から仙台市の社会福祉法人で介護職員として勤務。老人保健施設、グループホーム、小規模多機能型居宅介護、特別養護老人ホームでキャリアを積み、2010年には介護福祉士の資格を取得、ユニットリーダーとして活躍する。その後、判断力が低下したりもの忘れの症状が現れ始め退職。2015年に名取市の施設で働き始めるが、異変に気付いた施設長が、認知症の相談窓口『おれんじドア』を紹介。そこで医師と巡り合い検査を受けた結果、若年性認知症と診断される。現在は、症状がある中で自分にできることを施設側と一緒に探りながら、障害者雇用で働き続けている。

高橋 タミ子(たかはし たみこ)さん

認知症の人と家族の会 宮城県支部 会員、本人・若年認知症の集い「翼」

2013年に当時71歳の夫がアルツハイマー型認知症と診断される。それまで仕事一筋で人付き合いの少ない夫だったため、家庭の中に閉じず、地域で人とつながり過ごせるようにと、「本人・若年認知症の集い『翼』」に夫婦一緒に参加。コーラス活動や卓球などを楽しんでいる。徐々に言葉で表現することが難しくなっている夫の気持ちを推し量りながら、自分の中のストレスをうまく処理できるよう心がけている。

山崎 英樹(やまざき ひでき)さん

清山会医療福祉グループ 代表、いずみの杜診療所 医師

1985年東北大学医学部卒業。同大学病院、三枚橋病院、南花巻病院を経て、1999年仙台市に『いずみの杜診療所』を開設。自立(自分で決めること)と共生(人とつながりながら生きること)は、認知症という障がいがあってもなくても、人の命に授けられたあたりまえの権利であり、その権利が励まされ、大切にされる地域社会を夢みながら認知症の診療や市民活動に関わっている。『宮城の認知症をともに考える会』の世話人。『一般社団法人認知症当事者ネットワークみやぎ』の事務局。著書に『介護道楽・ケア三昧』『認知症ケアの知好楽』(雲母書房)など。

沼倉 亜紀子(ぬまくら あきこ)さん

多賀城市東部地域包括支援センター 相談員

岩手県一関市出身。2005年埼玉県立大学卒業。在学中は「障害のある人もない人もいっしょに街の中で生活していこう」をモットーに掲げる市民団体に携わり、地域福祉について関心を持つ。卒業後は宮城県内の介護老人保険施設に入職。支援相談員として活動する。2010年多賀城市東部地域包括支援センターに社会福祉士として入職。2016年より生活支援コーディネーターを兼務。翌年、認知症地域支援推進員を兼務し、認知症カフェの開発や認知症理解の啓発活動に携わる。

町永 俊雄(まちなが としお)さん

福祉ジャーナリスト

1971年NHK入局。「おはようジャーナル」キャスターとして教育、健康、福祉といった生活に関わる情報番組を担当。2004年からは「福祉ネットワーク」キャスターとして、うつ、認知症、自殺対策などの現代の福祉をテーマに、共生社会の在り方をめぐり各地でシンポジウムを開催。現在は、フリーの福祉ジャーナリストとして活動を続けている。

【2020年1月15日公開】