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フォーラム超高齢社会を生きる ~フレイルを知って 備えて 暮らす~ in 東京・立川市

概要

ー その1 フレイルを知ろう ー

2020年2月9日、東京都立川市で「フォーラム 超高齢社会を生きる~フレイルを知って 備えて 暮らす~」が開催されました。
フォーラムのテーマとなった「フレイル」とは身体的機能や認知機能の低下が見られる状態のこと。しかし適切な備えで老いの衰えを改善できると考えられています。
会場ではフレイルの事例として、加齢に持病や転倒が加わって体力や認知機能に支障が生じている80代の夫婦の様子を紹介。夫婦のかかりつけ医をつとめる鈴木慶医師は、昨年10月に通院から往診に切り替え、生活習慣も含めた指導を行い、改善を図ってきました。
「健康と病気を2つに分けて考えがちですが、その中間にある体力の低下や病気の前段階などに気づくことが大事。早めに対処していくことが健康寿命を長く楽しむことにつながります」と説明しました。(12:04)

ー その2 医療的アプローチ ー

老化の元凶とも言えるのが、「筋肉量の減少」です。
筋力が低下すると、歩くスピードが遅くなるし、転倒もしやすくなる。その結果、怖くて外出しなくなって社会活動から遠ざかる、食事づくりもおっくうになる。そして、食事の量が減ってさらに筋肉量が減る――といった悪循環に陥ってしまうからです。
鈴木医師は、基礎疾患の治療のほか、生活環境や栄養の改善、適切な運動を指導することで、フレイル予防を後押ししています。また、活動性が低下し新陳代謝が悪くなると「冷え」が生じることにも触れ、「西洋医学には冷えの概念や治療法はありません。しかし西洋医学とは異なるアプローチで治療を行う『漢方』を活用すれば、改善できることもあります」と話しました。(8:02)

ー その3 栄養と運動 ー

フレイル予防の基本は、筋肉量を増やすこと。
「年を取るのを止めることはできませんが、どんなに年を取っても筋肉量を増やすことはできます」と鈴木医師。
そのためには『栄養と運動』が欠かせません。とくに高齢者の場合、痩せすぎには要注意。肥満防止や糖尿病のコントロールなど健康維持を目標に食事制限に励む人もいますが、75歳以上は痩せすぎると早死にしたり、認知機能に障がいが出やすくなることが明らかになっています。
鈴木医師は「年を取ると野菜中心の淡白な食事になりがちですが、筋肉の原料となるタンパクやビタミンDを多めに摂り、痩せないように気をつけて」と語り、フレイルの進行状況の目安として、簡単にできる「指わっかテスト」を紹介しました。(7:28)

ー その4 フレイルの評価基準 ー

フレイルの進行は、「体重の減少」「握力の低下」「疲労感」「歩行速度」「身体活動」の5項目で評価します。
握力低下の目安は、女性の場合18㎏以下で、雑巾を固めに絞れなくなったら要注意です。
疲労感は日常的に見られる症状ですが、昼間普通に生活し何も疲れることをしていないのに『なんでこんなにだるいんだろう』と感じるようなケースが当てはまるといいます。
歩行速度の低下も自分では気づきにくいもの。青信号になったとたんに歩き出し渡り切れるかどうかを目安に判断してみましょう。
身体活動は、運動を全くしていない人はチェックを。5つのうち3つ以上当てはまればフレイル、1~2つなら「プレフレイル(フレイル予備軍)」の可能性があります。(4:03)

ー その5 社会的フレイルとつながり ー

虚弱が進行し最終的に寝たきりになる要因の一つに、社会から隔絶して孤立した状態(社会的フレイル)も含まれています。
社会とのつながりが希薄になれば、食欲や活動量が低下。筋力も弱って「身体的フレイル」も進行します。さらに刺激がないのでうつになったり認知症が進行してしまう「心理的フレイル」にもつながりかねません。
「社会的フレイル」「身体的フレイル」「心理的フレイル」の3つが絡み合って、どんどん悪い方向に進行してしまう危険があるのです。
会場では、骨折による入院をきっかけにフレイルが発生しかけたものの、地域の仲間の支えで阻止できた事例を紹介。
鈴木医師は「大事なのは、人間同士のつながり。人は誰かとつながることで、3つのフレイルをまとめて解消できるのです」と強調しました。(7:59)

ー その6 社会的フレイルとつながり ー

地域における支えあいは、都市部では難しくなっているのが現実です。会場では、地域とつながりを作ろうと奮闘する荒木茂子さん(61)の事例を紹介。
荒井さんは5年前、配偶者が亡くなったのを機に生まれ育った立川市に移住。利便性の高い駅近くの賃貸マンションで暮らし始めましたが、近隣の人の名前も顔もわからない状況に寂しさを感じました。
そこで月に2回、マンションの集会室でアーバンカフェと名付けたお茶会を開催することに。回を重ねるごとに参加者も増えています。
この取り組みを後押しした地域福祉コーディネーターの小林理哉さんは「荒井さんと同じように地域とつながりたい人が多いことに気づかされた」と感想を述べました。(9:19)

ー その7 福祉亭の取り組み ー

入居者の高齢化が進む多摩ニュータウン永山団地では、住民同士が支えあう取り組みが行われています。
その拠点となっているのが、団地の一角にある「永山福祉亭」です。2002年の開設当初は音楽などのイベントを楽しむスペースでしたが、独居の高齢者が増えた今は日常的な交流の場として利用され、ワンコインで提供されるバランスのいい食事に人気が集まっています。
また、高齢者が主体的にかかわれることも福祉亭の魅力の一つ。厨房では、60~80代の女性が家庭で培った料理の腕を振るい、食後は囲碁を楽しんだり編み物に熱中したり、手話を学びあうなど自由に過ごしています。
福祉亭を運営するNPO法人の寺田美恵子さんは「どこにでもある料理で心を癒したり健康を維持したりしていけることを、皆さんの姿から気づかされた」と話しました。(10:53)

ー その8 登壇者からのメッセージ ー

フォーラムの最後に、登壇者たちがメッセージを発信しました。
「どんな世代の人にも役割がある。人とつながる温かな社会を地域の住民の皆さんと力を合わせて作っていければ」と地域福祉コーディネーターの小林理哉さん。
認知症の人の支援を続けてきた来島みのりさんは、「認知症になっても社会の枠から外されることのないように、社会の中でみんなが生きていけるようにサポートしていきたい」と語りました。
寺田理恵子さんは「福祉は行政などの専門家だけで考えるものではなく、社会に生きるすべての人が自分の存在に光を当てることから始まる」と指摘します。「高齢の方だけでなく子どもも大人もみんなで考え、頑張っていきましょう」とエールを送りました。(10:12)

【2020年7月7日公開】

出演者

鈴木 慶(すずき けい)さん

鈴木慶やすらぎクリニック 院長

1984年埼玉医科大学卒業後、脳神経外科入局。1993年武蔵野総合病院脳神経外科医長、立川若葉町脳神経外科などで東京都二次救急医療に携わる。1998年、老人保健施設などを持つ、医療法人社団新緑会理事長。2006年現クリニック開設。救急医療を長年経験する中で、発症する患者の生活環境や社会環境を改善する必要性を感じ地域医療の担い手を目指す。クリニックに来る全ての人の「不安」に向き合うことから始める医療を心がけている。

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寺田 美恵子(てらだ みえこ)さん

NPO法人福祉亭 理事長、公益財団法人さわやか福祉財団 インストラクター

静岡大学、東京学芸大学などで図書館司書として勤め、1978年長男を出産後に退職。子育て中に地域のなかよし文庫活動と出会い、自主保育、生協などの地域活動に参加。2001年多摩市在宅支援課(当時)が呼びかけた高齢者社会参加拡大事業の福祉部会として福祉亭開設準備メンバー。その後、福祉亭運営に携わり、2004年NPO法人化。2013年6月理事長に就任、現在に至る。高齢化が進む多摩ニュータウンで、つながりを生む「福祉亭=場」を通じて、孤立させない、語り合う力の共有を実践している。

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来島 みのり(きたじま みのり)さん

高齢者福祉総合施設マザアス日野 副施設長・主任ケアマネジャー

1989年より介護職。以来、特別養護老人ホーム、小規模多機能型居宅介護の管理者兼任ケアマネジャーとして勤務。2008年に49歳でアルツハイマー病と診断された当時54歳の男性のケアマネジャーとなり、その夫妻の要請に触発され、2011年日野市若年性認知症当事者と家族の会「芽吹き」を立ち上げる。“たとえ若年性認知症であっても高い生産性を求めず、周囲の配慮があれば働ける”を信条としている。誰もが社会参加ができる、地域社会の包容力が問われていると感じている。

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小林 理哉(こばやし みちや)さん

社会福祉法人立川市社会福祉協議会 第3地区(曙・高松・緑) 地域福祉コーディネーター

山梨県出身。淑徳大学総合福祉学部社会福祉学科卒業。立川市社会福祉協議会の地域福祉コーディネーターとして、「孤立のないまち」「住民が困りごとの解決に参加できるまち」の実現に向けて、日々奔走中。地域での暮らしにおける悩みや困りごとに向き合い、自治会・民生委員児童委員・地域団体・企業・関係機関などと「顔の見えるネットワーク」をつくることで、その解決に向けたさまざまなアプローチを行っている。

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町永 俊雄(まちなが としお)さん

福祉ジャーナリスト

1971年NHK入局。「おはようジャーナル」キャスターとして教育、健康、福祉といった生活に関わる情報番組を担当。2004年からは「福祉ネットワーク」キャスターとして、うつ、認知症、自殺対策などの現代の福祉をテーマに、共生社会の在り方をめぐり各地でシンポジウムを開催。現在は、フリーの福祉ジャーナリストとして活動を続けている。

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