特集
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認知症フォーラム山口会場

概要

ー クリップ 1 出演者のみなさん 認知症とのかかわり ー

3名のパネリストが「医療」「介護」「家族」というそれぞれの立場から、自身と認知症とのかかわりについて語りました。「1999年にアルツハイマー型認知症の治療薬が登場したこと、そして同時期に介護保険が導入されたことで、認知症の医療や介護は大きく変化しました」と話すのは、認知症専門医の兼行浩史さん。20年以上認知症介護の現場にたずさわってきた吉松さんは、介護における変化の具体例として、本人の気持ちに寄り添ったケアが実践されるようになったことを挙げました。また「下関市認知症を支える会・キャッチボールの会」の代表を務めている篠原博之さんは、「家族である私たちは、キャッチボールをするように互いに意思疎通を図りたいと心から願っているのです」と話しました。

ー クリップ 2 認知症の種類と症状 ー

「もの忘れ」は認知症を早期発見するための重要なサインです。そこで兼行さんが、年のせいのもの忘れと認知症のもの忘れの違いを具体的に説明しました。まず認知症のもの忘れは、体験したことの一部だけでなく体験自体を忘れてしまうということ。「もの忘れがひどくなった」という自覚が乏しいのも特徴です。なお認知症はアルツハイマー型だけではなく、脳血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など、さまざまな種類があり、症状にも差があります。たとえば全体の20%を占める「レビー小体型認知症」の場合は、もの忘れよりも「幻視」や「妄想」を訴える人が多いとされています。また、認知症の中には正常圧水頭症のように治療をすれば治るものも含まれています。そのため、正確に診断するための画像検査は欠かせません。

ー クリップ 3 認知症の治療薬 ー

10年ほど前に、アルツハイマー型認知症の治療薬として、アリセプト(塩酸ドネペジル)が登場し、認知症の治療は大きく変わりました。認知症を完治させることはできなくても、症状の進行をある程度抑えられます。早めに薬の服用を始めれば、いい状態を長く保てる可能性が高くなります。その意味でも、早期診断が重要といえるでしょう。さらに2011年には、メマンチン、ガランタミン、リバスチグミンという3つの新薬が使えるようになります。メマンチンとガランタミンはアリセプト同様、内服薬ですが、リバスチグミンは新しいタイプの貼り薬です。兼行さんは「高齢化社会が進み、医療費が増大する中で、どんどん薬を飲めばいいというものではない」と懸念を示す一方で、「新しく登場した治療薬を介して医療者と相談しながら治療を進めていくというプロセスは、患者さんやご家族に新たな希望を与えるものです」と話しています。

ー クリップ 4 BPSDへの対応と漢方薬の効果 ー

認知症の症状は、中核症状と周辺症状の2つに大別できます。中核症状は、認知機能の低下による記憶障害などのことで、認知症になると必ず現れる症状です。一方、周辺症状(BPSD)の現れ方は、抑うつ、興奮、妄想、徘徊などさまざまで、出る人もいれば出ない人もいます。介護保険が普及し、昼間の介護は何とかなるようになりましたが、夜間は困るという家族が多く、悩みは切実です。認知症専門医の兼行さんは「BPSDは本人の身体の状況や生活環境などによって悪化する場合があります。何が原因になっているのかを見極めて適切な対策をとることで、症状が抑えられることもあるのです」とアドバイスしています。なお、漢方薬も有力なBPSD対策のひとつです。主に使われているのは「抑肝散」という薬。不眠症や神経症に効果があり、認知症によるイライラ、不安感、うつ症状などの改善が期待できます。高齢者にも安全に使える薬です。

ー クリップ 5 認知症介護のアプローチ 倉重さんの場合 ー

認知症の症状にどう向き合っていけばいいのか。悩んでいる家族は少なくありません。倉重トシノブさんの事例を通して、介護のあり方について考えます。倉重トシノブさんは6年前、63歳のときに前頭側頭型認知症と診断されました。施設のデイサービスを利用するようになった倉重さんですが、帰宅願望が強く、すぐに自宅に帰ろうとします。スタッフは、倉重さんに施設を好きになってもらえるよう、さまざまな工夫をしますが、なかなかうまくいきません。行き詰っていたときに、倉重さんの家族から「自宅でピアノを弾くようになってから、攻撃的な症状がだんだん和らいできた」という情報を得ます。倉重さんはスタッフの勧めで施設でもピアノを弾くようになり、さらにスタッフが話しかける機会を増やしたことで、たくさん笑顔を見せるようになりました。

ー クリップ 6 本人に寄り添った介護 ー

患者に寄り添う介護について、パネリストが意見を交わしました。介護の仕事にたずさわる吉松さんは「患者さんは、自分がどうしたいのかを言葉で表現できない場合も多い。介護者がご本人のニーズを探るのも難しいですが、さまざまな方法にチャレンジしてみることが必要です」と提言。篠原さんは、患者に笑顔を見せてもらうためには、医療と介護の両輪に加え、家族の連携も欠かせないと訴えました。一方、認知症専門医の兼行さんは「我々医療者は、患者さんの生活状況までなかなか把握できない」と言います。家族に介護日誌をつけてもらって診察時にその記録を参考にするなど、兼行さんなりの工夫についても紹介してくれました。

ー クリップ 7 地域の取り組み 山口市・鋳銭司(すぜんじ) ー

高齢化が進む山口市・鋳銭司地域。保健師の濱村さんは一人暮らしをしている高齢者の家を訪ね、体調はどうか、困っていることはないかなどを聞いてまわっています。しかし濱村さんのような地域を見守る専門職はたくさんいるわけではなく、限界があります。そこで民生委員や福祉委員といったボランティアが連携をとり、見守りが必要な人の家を訪問し、さりげない声かけをしています。また、夫を亡くして以来ふさぎこんでいた女性が、民生委員に誘われて地域の集いに出るようになってから、元気を取り戻したという実例もあります。鋳銭司ではこうしたさりげない見守りが、暮らしの中に息づいています。地域住民総出で、自分たちのためのまちづくりをしているのです。

ー クリップ 8 山口会場からのメッセージ  ー

フォーラムの最後に、パネリストたちがメッセージを送りました。篠原さんは、住み慣れた自宅でできるだけ長く家族と過ごせるように、さまざまな立場の人が協力し、認知症になってもできるだけ地域で生活できるような環境を整えていくことの必要性を強調します。吉松さんは「認知症になりたくないよねとか、なったらどうしようというのではなくて、『認知症になっても大丈夫』という地域づくりを進めていきたい」と話しました。兼行さんは医療が立ち遅れている現状を指摘。その対策として、治療可能な病態を見逃さないように早期発見すること、さらに地域で暮らす人を支える「かかりつけ医」を充実させていくことの重要性を訴えました。

出演者

兼行 浩史 (かねゆき ひろし)さん

兼行 浩史 (かねゆき ひろし)さん

山口県立こころの医療センター 院長

兼行 浩史 (かねゆき ひろし)さん

山口県立総合医療センター神経科部長などを経て2006年より現職。こころの健康を支える質の高い医療の提供を理念とし、診療に従事している。

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吉松 倫子 (よしまつ みちこ)さん

吉松 倫子 (よしまつ みちこ)さん

特別養護老人ホーム梅光苑 主任

吉松 倫子 (よしまつ みちこ)さん

機能訓練指導員柔道整復師として働いたのち、1987年より機能訓練指導員として高齢者介護に携わる。介護劇団「梅ちゃん一座」の立ち上げにも参加。認知症介護指導者。

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篠原 博之 (しのはら ひろゆき)さん

篠原 博之 (しのはら ひろゆき)さん

山口県支部設立準備会 代表

篠原 博之 (しのはら ひろゆき)さん

若年性認知症の家族会や、「認知症24時間いつでも電話相談」を運営。現在、「認知症の人と家族の会 山口県支部」の設立に向けて準備中。

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