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地域カンファレンス in 佐賀 認知症の人の思いから始めるまちづくり

概要

ー クリップ 1 BPSDについて考える ー

2016年1月17日に佐賀市文化ホールで「地域カンファレンス in 佐賀」が開催されました。テーマは「認知症の人の思いから始めるまちづくり」。医療や介護、家族、地域などさまざまな立場の人がパネリストとして参加したパネルディスカッションでは、介護者が対応に苦慮する「BPSD」について意見を交換しました。
介護老人保健施設で看護師長を務める市丸徳美さんは、「介護する側が本人の思いをくみ取れていないために、BPSDを悪化させてしまう」と指摘。内科医、薬師寺祐介さんも「発症当初は介護者側もBPSDについて理解できていないため、そのことがよくわかっていないので混乱が多い」と話します。精神科医の門司晃さんは、薬の副作用や不適切な介護環境、身体的な疾患など、BPSDのさまざまな原因について説明した上で、「本人の思いに寄り添いながら、原因をできるかぎり取り除いていくことが大事」とアドバイスしました。また、BPSDの対策、身体合併症への対応や体にやさしい効き方をする漢方薬の活用にも触れました。
(05:08)

ー クリップ 2 在宅医療チームが支える本人と家族の暮らし ー

パネルディスカッションには、レビー小体型認知症を患う緒方尚人さん(78)と妻のキミエさん、尚人さんの主治医の鐘ヶ江寿美子医師が参加。会場では、緒方さんがレビー小体型の特徴的な症状とされる「幻視」に気づいてから診断に至るまでの経緯や、在宅医療チームに支えられて安心して過ごす様子が映像で紹介されました。病と向き合って来た緒方さんは「入院をしていると滅入ってしまう。住み慣れた自宅で暮らすことができれば」と話します。キミエさんも、地域の人に認知症を隠さず、協力してもらいながら暮らしていきたいと望んでいます。パネリストたちは緒方さん夫妻の言葉に耳を傾けながら、認知症になっても住み慣れた地域で暮らし続けるには何が必要なのか、それぞれの立場で知恵を出し合いました。
(11:40)

ー クリップ 3 啓発から実践へ 吉野ヶ里町の地域づくり ー

吉野ヶ里町では社会福祉協議会の寺崎秀典さんが中心となり、警察や教育機関などに協力してもらいながら、町全体で認知症の人を見守る活動を行っています。寺崎さんがこの活動に力を入れるようになったきっかけは、平成22年の1月、認知症と診断されていた96歳の女性が行方不明になり、1週間後に雪の中で遺体となって発見されたこと。吉野ヶ里町では事故以前から認知症の啓発活動に力を入れていたのに、事故を防げなかったのです。パネリストとして参加した寺崎さんは「町のみなさん全員に『少しでいいから気にしていただくこと』が大事だと思います」と呼びかけました。また、買い物に行けない高齢者のために、吉野ヶ里町がコンビニエンスストアと連携して行っている移動販売の取り組みも紹介されました。
(06:24)

ー クリップ 4 高齢者同士の支え合い・伊万里市栄町 ー

伊万里市栄町はかつて新興住宅地でしたが、高齢化の波が押し寄せ、独居も増えています。人的資源も限られている中で高齢者を見守り、支えていくために、「高齢者が高齢者を支える仕組み」を作りました。NPO法人栄町ちいきづくり会ではゴミの回収活動を通して、体が不自由でゴミ出しができない高齢世帯の手伝いや、ゴミが出ていない家には声かけをして安否確認をするといった活動をしています。中心になって動いているのは高齢者たち。支えるほうも支えられる方も高齢者なのです。高齢者への配食サービスでも、お弁当を配るのは近隣の高齢者。手渡しする際には、ご近所同士会話も弾みます。お弁当を受け取る高齢者にとって安心感につながるだけでなく、配る高齢者にとっても生きがいになっています。
(05:30)

ー クリップ 5 地域を超えた居場所づくり・佐賀市嘉瀬地区 ー

佐賀市嘉瀬地区では、もともと地域にあった伝統行事などを生かして、高齢者や認知症の人が暮らしやすい地域にする取り組みをしています。そのひとつが10年以上前から続く「どようひろば」です。子どもたちに学校では学べない体験学習をしてもらうために始まった活動で、今では子どもたちだけでなく子育て世代から高齢者まで、世代を超えて交流する地域の居場所に発展しています。また集落での祭りの準備などでは、子どもたちが高齢者とともに楽しむなど、行事を通して縦のつながりが強化され、昔ながらの横のつながりも加わり、地域の力を強めているのです。認知症になっても自分らしく生きるためには、率直に地域を見つめ直すこと、再発見することが大きな力になっていくはずです。
(05:42)

【2016年6月21日公開】

出演者

門司 晃(もんじ あきら)さん

佐賀大学医学部 精神医学講座 教授

九州大学医学部卒業。佐賀大学医学部附属病院にて、認知症のご本人やご家族の思いに寄り添い、日々の診療を行っている。佐賀県もの忘れネットワーク顧問

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藥師寺 祐介(やくしじ ゆうすけ)さん

佐賀大学医学部 内科学講座 講師

佐賀医科大学(現・佐賀大学医学部)卒業。国立循環器病研究センター勤務、ロンドン大学留学などを経て現職。患者さんの在宅生活維持を目標に認知症治療に取り組む。

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森 久美子(もり くみこ)さん

認知症の人と家族の会 佐賀県支部 代表

認知症の人と家族が孤立しないように、地域と連携をして認知症カフェや交流会などの居場所づくりに取り組んでいる。

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市丸 徳美(いちまる のりみ)さん

介護老人保健施設ケアコートゆうあい 看護師長、認知症看護認定看護師

認知症本人の言葉、動作、表情など全てが本人からのメッセージと考え、認知症ケアの理解を深めるための活動に取り組んでいる。

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枝國 源一郎(えだくに げんいちろう)さん

医療法人源勇会枝國医院 理事長・院長

地域包括ケアシステム構築の基本形が多職種連携の会「かわそえネットワーク」にあると考えている。各地に同ネットワークの花が咲き誇ることを切に願う。

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鐘ケ江 寿美子(かねがえ すみこ)さん

ひらまつ病院 ひらまつ在宅療養支援診療所 院長、内科医・認知症サポート医

認知症の人の治療にあたる傍ら、「小城まちなか保健室」を立ち上げ、高齢者の相談支援の窓口として地域活動に参加している。

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井手 薫(いで かおる)さん

NPO法人栄町地域づくり会長

高齢者が安心して暮らせるまちづくりを目指し、独居高齢者世帯に見守り弁当を届ける活動や医療カルテを置く実証活動をスタートさせた。

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村岡 智彦(むらおか ともひこ)さん

嘉瀬小ボランティアネットワーク顧問

元嘉瀬小学校校長。子どもも大人も元気になる町全体の活性化と教育風土を高めるべく、世代間交流の活動に力を注いでいる。

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寺﨑 秀典(てらさき ひでのり)さん

吉野ヶ里町社会福祉協議会 常務理事

2000年から地域福祉を担当。認知症になっても気軽に立ち寄れる居場所づくりなど、認知症の人とともに生きる施策に日々取り組んでいる。

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八坂 要(やさか かなめ)さん

佐賀県 健康福祉本部 長寿社会課

「早期診断と早期対応の推進」「認知症の人と家族を支える地域・体制づくり」を施策とし、認知症の人に優しい地域を目指します。

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町永 俊雄(まちなが としお)さん

福祉ジャーナリスト

1971年NHK入局。キャスターとして教育、健康、福祉といった生活に関わる情報番組を担当。現在はフリーの福祉ジャーナリストとして活動を続けている。

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