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群馬発 長寿の未来フォーラム 人生100年時代への処方箋 〜最高齢化率の村に学ぶ“健やかな暮らしと生きがい”〜

概要

ー 登壇者の皆さん データで見る高齢社会 ー

2021年9月12日、「長寿の未来フォーラム」がオンラインで開催されました。テーマは「人生100年時代への処方箋~“最高齢化率の村に学ぶ健やかな暮らしと生きがい”~」。
高齢化率が60%を越え日本一高齢化が進む群馬県南牧村の会場から、3人のパネリストが情報を発信します。
冒頭、高齢社会について研究する秋山広子さんが、日本の人口動態の推移を説明。
「人口のバランスは短期間のうちに大きく変わった。50年前、1970年の年代別人口比率はピラミッド型で、若い世代が多く、高齢者一人を何人もの若者が支えることができていたが、2007年に高齢化率が21%になり、超高齢化時代に突入。このままいくと、逆ピラミッドになって、現役世代1人で多くの高齢者を支えなければならなくなる」と解説しました。(6:15)

ー 高齢化率66% 南牧村の今 ー

日本一高齢化率が進む南牧村の現状を動画で紹介。
昭和30年代は1万人を超えていた村の人口は、基幹産業の林業の衰退とともに激減し、令和2年には1612人になりました。また2010年から無医村となり、隣町の医師が週2回出張診療に来るのみ。とくに砥沢地区の高齢化率は88%と深刻です。
砥沢地区で暮らしをしている浅川泰吉さんが、周囲に空き家や一人暮らしが増えている状況を訴えました。「行政がどうやろうと、地域の高齢化は変わらない」と諦めの表情を浮かべる浅川さん。
一方、村長の長谷川最定さんは、高齢化に対する村の取り組みを紹介。「高齢期に高額な負担なく安心して入居できる施設を作り、現役世代の雇用も生まれている」と話しました。(9:02)

ー 在宅・訪問・漢方 高齢者医療の立場から ー

パネリストたちが、現状を打破するために何をすればよいのか、意見を出し合いました。
「一番の突破口は、医療が必要な人を減らすこと」と秋山さん。「フレイル予防や、無理のない範囲で働き続ける『生涯現役』が、健康長寿の一番の特効薬だと思っています」と意見を述べました。
医師の大澤誠さんは「インフラや施設が整っている都市部では高齢になった時の選択肢は、施設入所やヘルパーを入れるなど、ある程度決まってしまう。それが整っていないこの村だからこその自由度がある。自ら動き続けなければならない環境が、実は元気を保つベースなのでは」と指摘。
訪問診療や、オンラインによる看取りの対応といった医療的な支援のほか、漢方の異病同治という考え方を説明し、高齢期の健康を支える漢方の有用性にも触れました。(7:49)

ー 若者はリアルを目指してやって来る その1 ー

高齢化率が高く、「消滅する」とさえ言われている南牧村ですが、近年は移住する若者が増えています。
佐藤裕太さんもその一人。3年前に埼玉県所沢市から移住し、高齢者などに飲食店の弁当を配達する「モクメシ」を運営するNPOの代表を務めています。
移住の理由を「ここは人が優しい。若くて何もできない、能力もない僕を快く受け入れてくれた」と話します。結婚し、子どもも生まれたという佐藤さん。長く続けられる仕事として、花卉の栽培を新たに始めることになりました。
農業経験がない佐藤さんにとって出荷できるまでにするには大変な道のりですが、耕作放棄された土地を借り、石井清さんら花卉農家の先輩たちに教えてもらいながら、一生懸命取り組んでいます。(7:32)

ー 若者はリアルを目指してやって来る その2 ー

パネルディスカッションには、南牧村に移住した佐藤裕太さんと駕籠六宏太さんも参加。
「村の高齢者が生き生きと働く姿は見本になります」と佐藤さん。駕籠六さんは佐藤さんよりも先輩で、7年前に八王子市から移住しました。「以前住んでいたところではあまり声をかけられることはなかった。村の人はことあるごとに声をかけてくれて心も体も癒されている」と駕籠六さん。
長谷川村長は「ここ数年で結婚が3組、子どもが5人生まれた。移住者と従来からの村民が上手に共存しながら、村の将来の設計図を一緒に作っていければ」と期待を口にします。
秋山さんは「若者が先んじて生き方を選ぶ中で、村の高齢者と共同で良い化学反応が起きる予感がする」と話しました。(7:41)

ー 南牧村からの贈りもの「高齢化は怖くない」 ー

パネルディスカッションの最後に、パネリストたちがメッセージを発信しました。
高齢社会を研究している秋山広子さんは「高齢社会においては、日本は世界のフロントランナー。高齢化率第1位の南牧村が、人生100年時代の新しい生き方のモデルを発信していくことは、一つの使命だと思う」と話します。
一方医師の大澤誠さんは「人生の長さや量だけでなく、『質』をどう両立させていくかが重要。高齢化率第1位の村で暮らすことは決して不幸せなことでない」と感想を述べました。
長谷川村長は「高齢化を自然に受け止めたい」、そして「高齢化した地域はお荷物のように取り上げられるが、『実は高齢化って怖くない、大したことはないんだよ』と思っているし、これからもその方向で続けていきたい」と話します。(11:57)

【2021年12月27日公開】

出演者

大澤 誠(おおさわ まこと)さん

医療法人あづま会 大井戸診療所 理事長・院長

1980年 信州大学医学部卒業。1987年 群馬県佐波郡東村(現在伊勢崎市)で大井戸診療所を開業し、主に認知症のひとの在宅医療と、地域の医療と介護の連携に取り組んでいる。NPO法人在宅ケアを支える診療所・市民全国ネットワーク副会長、公益財団法人日本老年精神医学会、公益財団法人日本老年精神医学会評議員、一般社団法人群馬県介護支援専門員協会会長、群馬県在宅療養支援診療所連絡会会長、一般社団法人伊勢崎佐波医師会会長。

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長谷川 最定(はせがわ さいじょう)さん

南牧村 村長

群馬県甘楽郡南牧村生まれ。大正大学卒業後、南牧村役場の職員勤務を経て、2014年5月南牧村長に就任。現在二期目(任期2022年4月30日まで)。長きにわたる南牧村役場職員の経験を生かし、スピード感のある施策により高齢化率日本一(2015年国勢調査)の自治体を活性化すべく村政にあたっている。

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秋山 弘子(あきやま ひろこ)さん

東京大学未来ビジョン研究センター 客員教授 東京大学高齢社会総合研究機構 客員教授 東京大学 名誉教授

イリノイ大学Ph.D、米国の国立老化研究機構フェロー、ミシガン大学社会科学総合研究所研究教授、東京大学大学院教授(社会心理学)、東京大学高齢社会総合研究機構特任教授、日本学術会議副会長などを歴任後に2020年から現職。高齢者の健康や経済、人間関係の加齢に伴う変化を30年にわたり全国高齢者調査で追跡研究。近年は長寿社会のまちづくりや産官学民協働のリビングラボに取り組む。人生100年時代にふさわしい生き方と社会のあり方を追求。

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三宅 民夫(みやけ たみお)さん

アナウンサー 立命館大学産業社会学部 客員教授

1952年名古屋生まれ。75年NHK入局。岩手、京都勤務を経て、85年東京アナウンス室へ。『おはよう日本』『紅白歌合戦』など、さまざまな番組を進行。その後、日本のこれからを考える多人数討論を長年にわたり司会すると共に、『NHKスペシャル』キャスターとして、「戦後70年」や「深海」など大型シリーズも担ってきた。2017年NHKを卒業し、フリーに。現在は、NHKラジオ『三宅民夫のマイあさ!』(月~金・R1午前6:40~8:30)、総合テレビ『鶴瓶の家族に乾杯』の語りなどを務めている。著書に「言葉のチカラ」(NHK出版電子版)。

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