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フォーラム超高齢社会を生きる in 名古屋〜認知症の人の思いから始めるまちづくり〜

概要

ー (特別講演)超高齢社会を生きる ー

2018年7月18日、愛知県名古屋市で「フォーラム超高齢社会を生きる〜認知症の人の思いから始めるまちづくり〜」が開催されました。
国立長寿医療健康センター理事長・鳥羽研二さんによる特別講演のテーマは「認知症とフレイル」。
かつて高齢者が寝たきりや介護が必要になる原因の多くは脳血管障害でしたが、予防法や治療法が進歩した現在は少なくなり、代わりに認知症とフレイルが増加しています。
鳥羽さんはまず、認知症の現状や原因、治療、早期発見や予防のコツなどをわかりやすく説明し、関節疾患、骨折・転倒など加齢にともなって体の機能が衰える「フレイル」という概念が注目を集めていることに触れました。さらに「7種類以上の薬を飲んでいる人は転倒のリスクが高い」といったデータを示しながら、フレイルの具体的な予防法をアドバイスしました。(6:54)

ー 認知症の症状と当事者の思い ー

「認知症の人の思いから始めるまちづくり」をテーマにしたパネルディスカッションでは、パネリストとして認知症当事者の山田真由美さんと稲垣豊さんのほか、家族や介護職、認知症相談支援センターの担当者など「支える立場」の人たちも参加。
認知症を研究している専門医の小長谷陽子さんも加わり、記憶や実行機能、見当識が障害されて日常生活に支障が生じるといった、症状の特徴について詳しく説明しました。
一方、認知症になると地域活動や仕事を辞めざるを得なくなるケースも多く、社会とのつながりが途絶えがちになるというのが現実です。
小長谷さんは「できなくなったことばかりに目を向けてしまいがちですが、できることもたくさんある。できることを最大限活かして、社会とつながりましょう」と語り掛けました。(4:49)

ー 当事者に聞く ー

パネルディスカッションに参加した稲垣豊さん(69)は10年ほど前から認知症の症状が現れ始め、勤めていた青果店の仕事にも支障が出るようになりました。失敗が続き、ストレスで体重が激減した豊さんは、職場を依願退職することに。妻の一子さんはよき理解者として豊さんに寄り添ってきましたが、どう過ごしていけばいいのか戸惑うことも少なくありませんでした。
そんな夫妻の救いになったのが、名古屋市でスタートした若年性認知症本人家族交流会「あゆみの会」です。
あゆみの会に参加し、同じ体験をした者同士が気兼ねなく話し合うことができるようになって5年、二人は笑顔を取り戻しました。
パネルディスカッションでは稲垣さん夫妻の事例を映像で紹介しながら、本人はもとより支える家族のつらい思いや、地域における居場所づくりの大切さなどについてさまざまな意見が交わされました。(7:35)

ー 鉄道事故裁判が問いかけたもの ー

2007年12月9日、大府市在住で当時91歳だった高井良雄さんは、自宅の隣の駅近くで電車にはねられて亡くなりました。
良雄さんは認知症で、家族が少し目を離した間の事故でした。
鉄道会社側は列車遅延などによる損害賠償を求め、遺族を提訴。一審は「家族に監督責任がある」とし、遺族側が全面敗訴になりましたが、事故から9年後、最高裁で家族に監督責任はないことが認められて判決が覆ったばかりでなく、「認知症の人の行動が制限されないことが重要」という補足も加えられたのです。
パネルディスカッションには、良雄さんの息子の雄一さんがパネリストとして参加。
当時の状況や認知症を取り巻く社会の変化、さらにこの裁判をきっかけに認知症に対する誤解や偏見をなくすために取り組んできた活動などについて、話を聞きました。(7:51)

ー 本人の力 山田真由美さんのサポーター養成講座 ー

パネルディスカッションでは、7年前に若年性認知症と診断されたパネリストの山田真由美さん(58)の体験を通して、当事者が発信することの大切さを考えました。
山田さんの息子の翔大さんは昨年夏に結婚。山田さんには認知症によるさまざまな症状で、息子に恥をかかせるのではないかと披露宴への出席を躊躇していたそうです。
しかし「自分のような思いをしている当事者の人は多いはず」と考えた山田さんは、式の3日前に山田さん自身が講師となり、式場のスタッフに認知症サポーター養成講座を受講してもらうことに。
式当日はスムーズに山田さんをサポートし、出席者に認知症に対する理解を深めてもらうこともできました。
認知症になっても諦めずにさまざまなことに挑戦できる優しい社会を作るには、当事者自身が思いを発信することも必要。周囲もそこから多くを学び、行動することが求められています。(7:02)

ー 当事者が街へ出ることで変わる社会 ー

大府市に住む鳥飼憲一さん(70)は、5年前に認知症と診断された妻の美津代さん(70)を、地元のラジオ体操や認知症当事者と家族の交流会、認知症カフェなどさまざまな場所に積極的に連れ出すようにしています。
会場では鳥飼さん夫妻の様子を映像で紹介しました。
認知症になると自宅にこもり気味になる人も少なくありませんが、外に出ることで美津代さんはたくさんの人と交流してメリハリのある生活を送れるばかりでなく、介護する憲一さんもリフレッシュできる機会になっています。
一方、医療職や介護職、地域で暮らす人たちにとっても、鳥飼さん夫妻のような認知症当事者や家族から率直な思いを聞けるのは貴重な機会。積極的に話を聞き、認知症の人に優しい地域や社会を作っていくために役立てようとしています。(7:43)

出演者

鳥羽 研二(とば けんじ)さん

国立研究開発法人国立長寿医療研究センター 理事長

1978年東京大学医学部医学科卒業。1984年東京大学医学部助手。1988年テネシー大学生理学研究員。1996年フリンダース大学老年医学研究員、東京大学医学部助教授。2000年杏林大学医学部高齢医学主任教授。2006年同病院もの忘れセンター長(兼任)。 2010年国立長寿医療研究センター病院長。2014年同センター総長。2015年から現職。

稲垣 豊(いながき ゆたか)さん

名古屋市若年性認知症本人・家族交流会「あゆみの会」メンバー

名古屋市千種区在住。現在69歳。60歳のころ、アルツハイマー型認知症と診断される。長年勤めた青果店を退職後、約9か月間にわたり自宅にこもりがちな生活になったが、その後、仕事や地域のスポーツクラブの活動を通して、地域・社会とのつながりを取り戻す。「あゆみの会」の中心的メンバーとして認知症の啓発活動などを行っている。

山田 真由美(やまだ まゆみ)さん

おれんじドア も〜やっこなごや 代表

名古屋市西区在住。現在58歳。51歳の時に若年性アルツハイマー型認知症と診断される。若年性認知症本人・家族交流会「あゆみの会」に参加し、当事者同士の出会いのなかで前向きな気持ちになる。その経験から「認知症のことを知ってほしい」「当事者にもっと外に出てきてほしい」という思いで講演活動などを行っている。また全国的にもめずらしい当事者キャラバン・メイト(認知症サポーター養成講座の講師役)としても活躍している。名古屋市西区地域包括ケア推進会議認知症専門部会委員。

高井 隆一(たかい りゅういち)さん

認知症の人と家族の会愛知県支部 会員

1950年大府市生まれ。1973年中央信託銀行(現三井住友信託銀行)入社。取締役審査部長、執行役員不動産業務部長などを歴任。2008年認知症だった亡父の鉄道事故に関しJR東海より損害賠償請求を受ける。2010年提訴され、裁判の被告となる。2015年大府市にて亡父の跡を継ぎ不動産事務所を開設。2016年亡父の鉄道事故に関し最高裁にて逆転勝訴判決を得る。これを機に、認知症の当事者や家族の現実を社会に知ってもらうための講演活動を始めている。

小長谷 陽子(こながや ようこ)さん

認知症介護研究・研修大府センター研究部長、脳神経内科医

1975年名古屋大学医学部卒業。1981年奈良県立医科大学神経内科。1985年米国メリーランド大学医学部神経内科留学(2年間)。1987年奈良県立医科大学神経内。1992年JR東海総合病院(現・名古屋セントラル病院)神経内科主任医長。1999年同副院長。2004年認知症介護研究・研修大府センター研究部長、国立長寿医療研究センター物忘れセンター神経内科(非常勤)。若年性認知症の社会的支援について取り組むとともに、もの忘れセンターで認知症の診療を行っている。

伊藤 篤史(いとう あつし)さん

「とんと」OHANA(認知症対応型通所介護)管理者、作業療法士

若年性認知症の方のデイサービスの経験を踏まえ、現在認知症の方と生活を一緒に楽しむ支援を行っている。日々の関わりの中で何気ないことで一緒に笑い合い、できることを一緒に思いっきり楽しむことを大切にしている。作業療法=リハビリテーションだが、機能向上だけで はなく、今まで生きてきた生活を振り返りながら人生の山をおりる支援をしていくことが認知症の人への作業療法と考えている。生活の中で大切にしている作業を通じて自分を取り戻し、社会のなかでの居場所を得て、人とつながっていく社会参加を実現しようと日々奮闘している。

鬼頭 史樹(きとう ふみき)さん

社会福祉法人名古屋市社会福祉協議会 名古屋市認知症相談支援センター主事 若年性認知症相談支援担当

日本福祉大学社会福祉学部卒業。社会福祉士。2013年より若年性認知症相談支援担当として、若年性認知症の本人・家族の相談支援、居場所づくりなどに取り組む。名古屋市若年性認知症本人・家族交流会「あゆみの会」のメンバー・パートナーとともに、当事者の思いの実現、「認知症の人にやさしい地域・社会」を目指して活動。認知症当事者による発信、普及啓発、当事者同士が出会い、活動が広がる場づくり支援などを行う。

町永 俊雄(まちなが としお)さん

福祉ジャーナリスト

1971年NHK入局。「おはようジャーナル」キャスターとして教育、健康、福祉といった生活に関わる情報番組を担当。2004年からは「福祉ネットワーク」キャスターとして、うつ、認知症、自殺対策などの現代の福祉をテーマに、共生社会の在り方をめぐり各地でシンポジウムを開催。現在は、フリーの福祉ジャーナリストとして活動を続けている。