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「認知症で日本をつなぐ」

コラム町永 俊雄

▲ 「認知症で日本をつなぐシンポジウム2018」の会場の様子。講演、リレートーク、ディスカッションなどが盛り込まれた。初めてのイベントなので、むしろこれからの可能性に期待したい。こうした動きをただ成果を待つのではなく、社会の側、市民の側の注目や参画で育てていく視点も必要。

9月16日に、東京神田の東京都医師会館で「認知症で日本をつなぐシンポジウム2018」というイベントが開かれた。
今年の認知症をめぐる動きの中でも、ある転換を示す注目のイベントだったかもしれない。

今回のイベントは認知症の当事者団体の4つが連携したものだ。
「認知症の人と家族の会」「全国若年認知症家族会・支援者連絡協議会」「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」「レビー小体型認知症サポートネットワーク」の4団体である。

そもそもは2017年の京都ADIでの当事者同士の出会いだった。国際会議の壇上でそれぞれの団体メンバーが痛切に感じ取ったのは、「自分たちだけじゃない」という、思わず互いに走り寄り手を取り握りしめたいような、熱く確かな感情だった。その時のADI会場全体の盛り上がりもそれを後押しした。

行政からの呼びかけでもなく、机上の組織論でもなく、当事者の思いを縒りあわせるようにして、自律的に寄り添い集まってこの会は発足し、去年8月に「認知症関係当事者・支援者連絡会議」となった。

今回のシンポジウムのサブタイトルは、「当事者とは 〜本人の思い、家族の思い〜」というものだった。ズバリと核心に踏み込もうという気迫に満ちたタイトルである。
認知症の本人の思いと家族の思い。これはかなりセンシティブな部分で、なかなか外部評論しづらい。以前のコラムで私はこう記した。

「認知症の本人発信が盛んになる中で、家族の丸抱えの「お世話」は本人から自立を奪い、「出来ない人にされてしまう」と言われた。確かにそれは「支援」のあり方を問い直し、認知症ケアのあり方を変革した。その一方で、地域の片隅で懸命に身近な認知症の人の介護に当たる家族に、「なんとかしてあげたい」のどこがいけないのかと、自身の誠心をなじられたような鬱屈を植え込んでしまってはいなかったろうか」

壇上には、本人、家族、そして支援者が登壇しディスカッションとなった。
ただ、討論としてはなかなかそれぞれの当事者の立場をめぐってのクロストークとまでは行かなかった。
これはむしろ、これからの課題設定の方向性を示したものと捉えるべきだろう。当事者発信の広がりは、理念、方針の向こうに今や暮らしの実感、本音でそれぞれの「当事者性」を語る段階に来ている。本人とその家族、支援者が、それぞれの思いを率直に語り合う枠組みを示したことで、次の実質につながるはずである。そしてこれこそ、連携する当事者団体だからこそ取り組めることだ。

その方向性は、壇上の本人が、参加者との話し合いを通じて、「それぞれの当事者のつらさの違い」を知ることができたことは大きいと発言したことで、示された。
この発言の意味は重い。それぞれの「つらさの違い」を知ることが、自身のつらさの中に閉じこもっていた本人や家族に、そのつらさを相対化し、語ることのできる「つらさ」に転換させる。それは発信の窓であり、地域社会へ歩み出す扉を開くことにもなる。

「本人のつらさ」「家族のつらさ」それぞれは確かに違うだろう。しかし、それは互いにはじき返す関係であるはずがない。本人、家族という当事者それぞれのつらさを重ね合わせることで、互いの気づきとレジリエンスが生まれてくる。

「相違と共通」をつなぐ。この連絡会議の役割でもある。
ただ、それは連絡会議全体の運営の側面からすれば、難しさもある。
家族の会の鈴木代表は挨拶の中で、「それぞれの立場を尊重しつつ、ゆるやかな連携」を方針とするとした。

それぞれの団体の独自性と連携というのは、実は相反するところがあり、言うほど容易ではない。まずは連絡会議自体の交流だとしているが、それは同時に開かれていることが必要だ。
それぞれの団体の独自性という「違い」から生まれるものは何か。時にはぶつかり合い、練り上げ止揚するような議論が生まれるといい。

私たちも知りたい。家族の会なら、家族支援について。若年なら、就労について。男性介護者ならではの孤立。レビーならではの医療。
例えばそうした事例の統合は、「認知症」を社会に発信していく時の具体的な推力となる。
内部だけで閉じないことだ。外周には認知症だけでなく、多くのつらさや困難の中の地域の生活者がいる。そことつながる。そこの人の思いを汲みあげる。
それはこの社会のイノベーションを推し進めていく意思表明である。

歴史的に振り返れば、まず家族が声をあげ、歳月を経て当事者本人が発信し、そして今、それぞれの当事者団体が連携し動こうとしている。
それは、全国の現実と向き合う諸団体を通して、地域社会の隅々まで「認知症の力」を注ぎ込む新たな社会システムの構築とも言える。

「認知症で日本をつなぐ」
つなぐ力となるのは、「独自と普遍」「大きな枠組みと、ひとりの声」をともに見つめる各団体の使命でもある。

|第81回 2018.9.25|