▲今年の「認知症とともに生きるまち大賞」表彰式は、渋谷のNHKスタジオで開催。写真は選考委員の皆さんと。各地の受賞団体とオンラインでつないでの表彰式。画面の向こうには多くの皆さんがとても盛り上がっていた。来年こそ対面しましょう。
今年の「認知症とともに生きるまち大賞」の表彰式とフォーラムを開催した。
今年の「まち大賞」は、どれも不思議な活力がみなぎっていた。どの紹介映像にも、地域の人々の笑顔が輝いていた。それは見方によれば、このコロナの日々に各地の地域活動の人々や認知症の当事者の希望を取り戻す取り組みだったと言っていい。
確かに去年今年と応募数は痛ましいほどに少なくなった。地域活動がこのコロナの日々にどれほどの痛手を被ったのか。とりわけ、いわゆる「弱者」にその痛手は大きくシワ寄せされた。
不要不急の外出の自粛は、それはそのまま認知症当事者を閉じ込めた。外出できないことで歩くことが難しくなった人、人と会えないことで言葉が出なくなった人、そして認知症の症状が一気に進行した人。それらは、感染対策の大合唱の中に埋没し、社会から見えない現実だった。
今年の「まち大賞」を俯瞰すれば、それはこの地域社会の底力と言ってもいいし、あるいは、今一度、自分たちの社会の「問い直し」の意味が込められていた。私たちの地域社会はどうあったらいいのか。そこにあるのは、認知症を見るのではなく、認知症から見るという当事者視線での地域社会の姿である。
それでは、恒例の2021年「認知症とともに生きるまち大賞」本賞4団体、特別賞3団体、一挙掲載。
<本賞>
「ヒロさんの畑 認知症があっても我らアクティブシニア」
茨城県ひたちなか市津田
余命宣告を受けた一人の高齢者ヒロさんが、自分の闘病生活の励みにと耕していた畑があった。そこにケアマネや近所の人がヒロさんの暮らしを応援するように参加した。やがて、そこには近所の認知症の人や高齢者、子供たちの集まる場所となって、作物が育つようにして地域の輪が広がった。
ヒロさんは自分の畑の賑わいを見届けるようにして逝った。
今でも「ヒロさんの畑」は地域のかけがえのない活動拠点となっている。
地域のつながりは横だけでなく、命を縦につなぐようにして生まれた地域再生の物語。
「高尾山登山」
彩星(ほし)の会 東京都新宿区
彩星の会は若年認知症の人と家族の会として20年の歴史を持つが、このコロナの日々で活動も停止、外出できない中で体力や気力がすっかり衰える人も出てきた。
そこで始めた高尾山への登山。
本人と家族と一緒になってただ高尾山に登る。そこから家族同士の近況報告や相談、認知症の本人の思いや力、その協力の間合いも自然に発見できた。やがて他の家族会や車イスの人も加わって、それぞれの人生を歩むようにして誰もが一緒に高尾山に登る。
楽しみ合い、分かち合う。シンプルだからこそ、間口広く大きな輪となった秀逸な取り組み。
月2回の高尾山登山、今後は月3回に増やすという。
「チーム上京!」
京都市上京区
今年のコロナの日々で孤立する高齢者から動いた確かな地域活動で、ひとりの人の困難を近隣の人々が分かち合い与え合うようにしたそんな取り組み。
ひとりの認知症当事者がコロナの日々、家に閉じこもりがちだった。そこに近所の顔馴染みの人や福祉関係者が集まり語り合い、できることから始めようとその当事者安達春雄さんの自宅ガレージを開放した。
そこから小さいが確かな様々な地域活動がつながる。こだわりコーヒーのサロン、子供達の遊びや学びの場、などなど。今では、町内会、各種団体、地域包括支援センター、京都市役所の担当者も参加して、地域社会のつながりの場「チーム上京」となっている。
たったひとりの認知症の当事者の思いから生まれた小さな取り組みが、点が面となり、そして最も確かな認知症ともに生きるまちに育った。
「大分県認知症ピアサポーター事業」
大分県豊後大野市
この「まち大賞」で初めて認知症の本人の戸上守さんが、自分自身の手書きによる応募で、そこにぎっしりと書き込められた熱量と思いが大きい。
その本人は、大分県の認知症希望大使であり、ピアサポーターである。若年認知症の自分の抱いたつらさや困難を分かち合うためのピアサポーターの取り組みは、当事者ならではの自然体で、今や彼は多くの認知症当事者とつながっている。
ひとりの当事者が発信することで、地域に大きな変化を生み出したコロナの日々での心強いまちづくりの一歩である。
<特別賞>
「石倉オレンジ文庫 はっちゃけ道場宿(どうじょうじゅく)」
認知症の人と家族の会栃木県支部
若年認知症当事者の「自分たちのやりたいことを自由にやりたい」という本人の思いの実現から始まった取り組み。ここでは、参加者の「やりたいこと」から、その日の活動が決められていく。石倉文庫は地域に開かれているので、小学生も参加してゲームで盛り上がる。
この活動は、実はその背後にある栃木の家族の会の存在が大きい。
これまでともすれば認知症の人の家族は、本人と介護家族だけに閉じ、互いの思いやりがずれ双方の暮らしが行き詰まりがちと言われてきた。家族の会が地域全体に目を向け、そこから当事者との協働の形を作り上げたことは、これからの地域変革の力となる可能性を示している。
「心のバリアフリーを通じて、里をつむぐ・いのちをつむぐ半農半介護」
岩手県八幡平市・つむぎ八幡平
過疎地、限界集落、高齢化率40%を超える厳しい現実の中で、試行錯誤の末にたどり着いた共生の取り組み。地域特性としての農業を核にして、与える介護というより、そこに暮らす人々の「私は百姓」というプライドと主体、その力を尊重したのが「半農半介護」。
土に接し土を耕し、作物を育てることで、自然からもケアの力をもらうような大きな視野で地域を見つめ、「生命の循環の場」を造り出した。
認知症の人、障害者、高齢者の「まるごとケア」の創造として全国的も注目されている。
「〜ドラえもんのポケット〜未来へ出発(京都発)駅カフェ」
京都市岩倉地域包括支援センター
2018年から取り組んできた駅カフェも、このコロナの事態ですっかり停滞した。
外出ができない認知症の人々と共にもう一度何ができるかと叡山電車八瀬駅の職員、認知症当事者を交えて語り合い再出発した駅カフェだ。再開した駅カフェは、認知症の人や家族だけでなく、遠方の人々をも引き寄せた。
公共とは何か、企業と地域の関係はどうあったらいいのか。これまでの活動を、このコロナの事態で見つめ直しイノベーションを図り、「未来へ出発」という思いを込めた事例である。
なお、この「認知症とともに生きるまち大賞」のフォーラムの様子は、NHK Eテレ 12月27日(月)午後8時からのハートネットTVで放送される予定。
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NHK厚生文化事業団 第5回認知症とともに生きるまち大賞