体験談〜本人の声、家族の声〜

認知症の人と家族の会 
会報誌「ぽ〜れぽ〜れ」

2016年11月号(436号)

ー お便り紹介 ー

母の心には家族への愛情が富山県・Bさん 50歳代 女

母が呆けた時、私は40代でした。目の前に子どもがいるのに、「子どもがいない」と言って探しに行こうとするのを見て訳がわからなかったのですが、「家族の会」の人に電話で「お母さんの時間が昔に戻っていて、小さい自分の子が家に帰ってこないので、心配して探しに行く」のだと聞いて納得しました。
「ぽ〜れぽ〜れ」で他の人たちの記事を読んでいても、みんな家族のことを思って、ごはんの心配をしていたり、財布を隠したと言って怒ったりするのも、たぶん大事な家族の生活のためのお金を知らない人に盗られたと言って怒るのではないかと思いました。「家に帰る」というのも親が心配しているから帰らなくては…など、家族への愛情が心の底にあるのではないかと思えるようになりました。母の愛情に気づかせてもらったおかげで、気持ちがものすごく楽になりました。

10分足らずの最期の再会新潟県・Eさん 70歳代 女

姉は、夫である義兄の死も認識できず、棺の中を見ても状況がわからないようで、10分足らずの最期の再会でした。
長年支え合っていたように見えた夫婦ですが、互いの認知症という病を認められず、二人の急速に崩れていく姿を見てきました。施設は助かりますが、何かさみしい気持ちがする数年でした。近くにいた私は、「妹としてもっとできることはなかったのか」と反省の毎日です。

身体の中の空白に認知症カフェと旅岡山県・Gさん 60歳代 女

アルツハイマー型認知症の母の三回忌を昨年5月に行い、その年の11月に脳血管性認知症の父を「延命処置はしない」という本人の希望に近い形で看取ることができました。二人を同時期に介護した12〜13年を私は、「私なりに良くやった」と誉めたいぐらいでした。その反面、私の身体の中に空白が生まれました。
母を看取ってすぐ、自宅を開放して「認知症カフェ房舎」を開設しました。房舎=休息する場所を与える意。資格はなく、あるのは介護体験だけ。3年目を迎え、定休日以外は開放しています。そのおかげで、身体の中の空白も縮小しているようです。介護しなかったら、今の私はなかったかもしれません。介護中からしたかったことのひとつは、「認知症カフェ」。もうひとつは、車の運転ができる間に1人旅をすること。セミキャンピングカーの軽自動車は注文した。さてと、どんな旅になるのでしょう。

ー 私の介護体験談 ー

若年認知症と診断されてから9年目の介護山梨県支部 60歳代

病気の進行を実感する日々

現在66歳の夫は、2ヵ所のデイサービスを利用しています。夫は若い時にギターを弾いていたので、認知症の症状が進行している現在でも弾きながら歌うことができます。ですから、デイの利用者と一緒に歌う時、自分が役に立っていると思い、ギターを持ち、みなさんに向かいます。
平成20年にアルツハイマー病と診断され9年目になり、要介護度は2です。自分では洋服の着脱はできません。朝、「おはよう〜」と起きてきますが、何をするのかが分からずにいます。まずは洋服の着替えから始まり、気分により対応の仕方を変えながら、「ズボンを脱いで」と私が言うとシャツを脱ぐことがあり、私は何も言わずにシャツを手渡しています。濡れタオルを渡して、「顔を拭いて」と言っても顔が分からず、「メガネを外してから」と言っても、テーブルのバナナを持ち、「これ!」と言う。「あぁー、メガネもバナナも分からないのだ」と、病気の進行を日々実感し、会話の対応も怒らせないように工夫しています。
デイを利用しない日は、いつも一緒に電動自転車に乗っているので、猛暑でも雨でも外出したがります。自転車の鍵の仕方が分からない時もあり、夫は「教えろ」「早くそう言えばいいだろう」と私が今、初めて対応しているように思っています。自転車の鍵で「玄関の鍵の開け方を教えろ」と言う場合もあり、何事でも自分でできていると思っているのです。
「おかあさんに何でもしてもらっているから」と私の手伝いをしたくて、「何かすることある?」と、毎日のように声掛けをされます。先日も「料理する」と夫は先ず手洗いをはじめ、ホットケーキの粉をかき混ぜ、フライ返しで裏返し、「熱いよ!熱いよ!」と言葉を添え、フライパンの持ち手を気にしながら手伝ってもらいました。食べる時には料理したことは忘れています。あえてそのことには触れませんでした。
未だにできることは、洗濯物を干してたたむことです。たまに生乾きの洗濯物を取り入れる場合がありますが、やはり触れません。

運転免許証の返納

今年の8月に夫は、運転免許証の書き換えの時期となり、返納手続きをしました。お薬手帳を持参して係りの人から、本人が納得できるような説明をしていただきました。
数日後に運転免許証と同じ形態の運転経歴証明証が発行されました。夫が返納を納得できるかが私にとっては問題の一つでした。自動車を手放す時も大変でしたが、原付バイクはまだ処分をせず、「いつ乗れる?」と夫は騒ぐ時もあります。そのたびごとの対応に気を使います。
最近は探し物も多くなり、予備のメガネを買っておき、デイに行く時間に間に合わせる時もあります。
自分の介護の時間を作り、互いに楽しい時間を過ごしやすくできるように工夫を心がけています。
10月7日の支部交流会・研修会に参加して、同じ悩みを抱えて生活している仲間と久しぶりにお会いできることを楽しみにしております。

※ 会員様からのお便りを原文のまま掲載しております。