体験談〜本人の声、家族の声〜

認知症の人と家族の会 
会報誌「ぽ〜れぽ〜れ」

2023年11月号(520号)

ー お便り紹介 ー

面会も愛情です青森県・Aさん 男

妻が特養に入所してからもう少しで三年、入院を入れると三年半、コロナ禍も広がり、面会も出来なくなり半年以上、現在はウイルス検査で、予約面会は出来るようになり、週一回以上は必ず出掛けていますが、時すでに遅く見て笑っていたのも、今は過去の笑える話題で、笑顔の反応はある時もありますが、目を合わせる事は有りません。
それでもマッサージや話し掛けを欠かしません。
虚しい面会ですが、これも愛情と思い命ある限り続けます。最近のニュースで老老介護に於いて痛ましい事件がおきていますが、ひょっとしたら自分に起きていたかもしれないと、心が痛みやりきれない辛い思いがあります。

一番安心できるのは自宅群馬県・Dさん 女

今年の夏は本当に暑かったですね。涼を求めて7月と8月に家族と一泊二日の小旅行に行きました。夫も朝の散歩やお花畑の散策など楽しめたようでした。
一方で温泉の大浴場に入るのは難しく部屋風呂を余儀なくされたり、フルコースの食事に戸惑ったり、落ち着かない様子も見られました。また出先でのトイレも心配の種。ユニバーサルトイレが設置されたサービスエリアは便利ですが、それらがないところでは男子トイレに一緒に入ることもできず困りました。認知症の人にとっては自宅が一番安心できる場所であって、旅先は居心地の良い場所ではないのかと実感させられました。

アドバイスが心強い岡山県・Eさん 女

2月に姉と二人で母の胃ろうか看取りかの決断で相談に伺いました。岡山県支部の代表、副代表に非常に親身にアドバイスをいただきました。
その後、母は病院の方々のおかげで食事をとれるまでに回復し、今後は様子をみながら施設への移動を待つ状態までになりました。出来れば家で母を介護したいのですが、現状ではかなり難しいらしく、母のためにも車椅子に乗れるまでにまずはリハビリをしてもらい、食事を安定して食べられるようになって…とステップを踏んで少しでも寝たきりから回復するようにと考えています。
またご相談に伺う事もありますが、その際にはどうぞ宜しくお願い致します。代表、副代表のアドバイスは心強いです。

直前の記憶がありません東京都・Fさん 男

妻(75歳)がアルツハイマー型認知症と診断されたのが2016年、認知症の記憶障害の影響がはっきりしてきたのが2018年です。妻の現状は、「直前の記憶がない」ことに起因します。直前の記憶がない、できないというのは、本人にとっては不快であり、不安だろうと思います。
例えば、次にやることがわからず、それでも家事をしなければという意識はあってウロウロしています。料理も段取りがわからなくなり、できなくなりました。カレーを作るから玉葱を切ってと指示するとそれなりにできますが、切っているうちに、なにを作ろうとしているのか忘れて切り方が違ってきます。一方、食後の片づけは積極的にやろうとし、実際にやってくれています。本人も、自分でできることとできないことの区別がついている感じです。
直前の記憶がないことに関連するのかどうかわかりませんが、目の前にあっても気づかないことが増えました。相手の話が理解できないようで、会話が成立しないこともあります。本や新聞、テレビも理解できないようで見なくなりました。ドラマやニュースのストーリーが理解できないようで、途中でテレビを消すことが多くなりました。「楽しむ」ことや「共感」したり「感動」することもなくなったように見えます。
人が人らしくあるためには、昔の記憶もさることながら、今の記憶、直前の記憶の積み重ねがあってのことと思います。でも、それをサポートすればそれなりに生きていけますので、本人の「不安」を「安心」に変えるサポートを続けていければと思っております。

ー 私の介護体験談 ー

思わぬ大きな手術の決断を振り返って神奈川県支部

夫の大動脈瘤手術

夫は71歳。若年性アルツハイマー型認知症8年目です。
昨年の5月から8月の間に、白内障手術、胸部大動脈瘤の手術をしました。白内障手術は、「これ以上認知症が進行する前にやってしまいましょう」との主治医の判断により5月に決まりました。その手術前の一連の検査をした際に、胸部レントゲンで「何か」があるとCTを撮ってみると5cmの大動脈瘤が見つかりました。「破裂の危険性があり、なるべく早い時期に手術が必要な大動脈瘤です」とのお話。手術症例数の多い病院を探そうと検索してヒットした病院は、川崎市内にある「大動脈瘤センター」でした。早速、病院の外来であるクリニックへ行くことにしました。そこは、「家族の会」の支部代表の杉山先生の外来クリニックでした。これも巡り合わせ、絶対何とかなると妙に安心しました。手術は当初7月下旬の予定でしたが、コロナ感染者の増加などもあり8月上旬に決まりました。手術前に医師から、「瘤が5cmで、いつ破裂してもおかしくない状態」「瘤の場所が脳へ行く血管の根元にある」「リハビリ専門病院への転院が必要」「術後、認知症の影響によるリスクが高い」など、かなりの覚悟が必要であると説明を受けて、娘たちと手術日までの間に何度もオンラインで話し合いました。

決断の迷いと難しさ

長女は、破裂した時は天命だと思って手術に反対。「お父さんが今回の病気や手術の意味を理解できていないし、主治医の言うリハビリができる気がしない。認知症の進行も確実」。次女は「お父さんは何も言わないから、お母さんが楽な方を選択していい。お母さんには今後自分の時間を大切にしてもらいたい……」と何とも微妙な意見。リスクが満載でも破裂回避のための手術をするのか、このまま瘤を抱え天命に従うか……。私の頭の中はいつもそのことでいっぱいでした。夫は何度説明しても「何故俺が手術?どこが悪い?」と全く理解していない様子でした。夫に決定権が無いというのは、家族の負担が募るばかりです。結局手術に踏み切ることにしました。入院当日病院へ向かう電車内でも私は「今なら手術やめられる、引き返してもいいんだよ」と何度も心の中で叫んでいました。
いざ手術をしてみると回復は早く17日間で退院ができました。入院中は、点滴を抜いたり自宅への帰宅願望からか「院内脱走」未遂は何度もあったようです。夫には入院して手術した自覚はなかったのでしょうか。また、携帯電話を持たせたのは失敗でした。昼夜を問わず私の携帯や自宅の電話、姉への着信が止まりませんでした。

面会できないことの影響

コロナ禍で入院中一度も面会ができなかったこともあり、退院後の認知症の進行は加速しました。電車やバスを使っての一人での移動はできなくなり、かろうじてできていたアルバイトも昨年末で辞めざるをえませんでした。
認知症でなかったら、「破裂寸前の動脈瘤も除去できて、まだまだこれからひと頑張りするぞ!」と車で孫たちを連れて遊んでいるのでしょうか。

※ 会員様からのお便りを原文のまま掲載しております。