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街に「認知症カフェ」がやってきた

コラム町永 俊雄

▲ さあ、認知症カフェ、その打ち合わせ。左から二人目、黒いエプロン姿は店長さん。お世話になりました。

7月26日、東京郊外、町田市にあるスターバックスで「認知症カフェ」が開かれた。スターバックスといえば、都心でのトレンディスポットとして人気のお店だ。そこに「認知症カフェ」、これは全国のスターバックスでも初めての取り組みなのだそうだ。インパクトは大きい。しかし、これは単なる物珍しさだけではなく、「地域」の取り組みとしてのチャレンジと可能性を感じさせるものだった。

当日は準備に多くの人が集まった。町田市役所の人、認知症に関わるNPOの「認知症フレンドシップクラブ」や「認知症とともに歩む人々、本人会議」のメンバー、法政大学現代福祉学部の女学生グループや、もちろん近所の人、認知症の人たちも加わっている。みんなで店内の机と椅子を配置し、認知症の人が撮った写真などの作品を飾り付け、認知症の人の演奏のための音響設備もセットした。初めて顔を合わす人たちもいきなり和気あいあい。この雰囲気って何か覚えがあるなあ、と思ったらそうだった。はるか昔の学園祭の準備での、あのワクワク感なのだった。何かを自分たちの力で生み出す。そのことに関わる期待と喜びがここには満ちていた。「地域」は誰かに創ってもらうのではなく、自分たちで創るのだという感触。

そもそもは市役所の高齢者福祉課で、町田にも認知症カフェを作ろうとした時、ここでエライのは自分たち施策の側だけで立案するのではなくまずは認知症の人たちの意見を求めたことだ。その声で市役所の担当者は大きな気づきをもらうことになった。
「認知症カフェに行くよりも、街の喫茶店に行くよ」
「どうせならスターバックスでコーヒーを飲みたいね」
どこかで「認知症の人」という発想の枠の中、何より地域の生活者なのだというアタリマエのことに思い至らなかったのではないか、そう担当者は気づいた。
それにスターバックスのストアマネージャーの林健二さんが応じた。
「ここ住宅街では、都心の六本木や青山といった店とは性格が違います。近所の高齢の方が歩いてやってくることも多いのです。地域と共にある店として当然、その中に認知症の人がいることを考えるべきでしょう」
かくして、全国のスターバックスで初めてという認知症カフェ、町田ではディメンシアのDから名付けられた「Dカフェ」が開催されたのだった。

その日、認知症の人の挨拶から始まって、認知症の人たちとの話し合いと進み、これはお店の一角で区切られたりはしていない。お店には他の一般の客もいることから迷惑になったらいけないと多少遠慮気味に始まったが、何の事はない、他のお客も興味深そうに見守っている。二人連れの抹茶ラテの若い女性は、「認知症の人の話を初めて聴き、へええ、と思いました。うちのおじいちゃんにも教えてあげます」
特別に区切るのではなく、交じり合い自然に波紋のように、このお店から認知症の理解が広がっていくといい。
その日のDカフェには、嬉しいことがあった。それはタウンペーパーの告知を見た認知症の人や家族が何人も来たことだ。とかくこれまでの認知症カフェというと支援者が中心になって場を作り、そこに認知症の人を招く、あるいは来てもらうという形が多かった。飛び込みでやってきた夫婦は、「この街にこんなところがあるなんていいわねえ。行くところが出来ました。ね、あなた、また来るわね」 妻がまずとても嬉しそう、そして認知症のご主人は「ウン」、ふたりで何度も振り返り会釈しながら帰っていった。

▲ 町田市では認知症カフェを「Dカフェ」という。やがて街のあちこちにこの「Dカフェ」が出現するはず

町田のDカフェは、オリジナルで出張認知症カフェの形をとる。商店街のイベントや地域の交流スペースなど、認知症の当事者の企画も取り入れながらあちこちに出張し、それをカフェマップに記していく。目指すのは、街中どこでもDカフェ化、あたりまえの生活地域のあちこちに「Dカフェ」の空間ができることだ。蕎麦屋に言ってもコンビニに行っても、そこで「認知症」のことを話しあうことが出来るようにしたいという。
ちなみにスターバックスでは、今回を機にスタッフが講習を受け、認知症サポーターのオレンジリングをつけるようになったという。

新オレンジプランにも位置づけられている「認知症カフェ」、それは認知症施策の枠を超えて、誰もが自分らしく暮らすことが出来るジブンタチの「街づくり」への確かな道すじだと、私はそう思う。

|第31回 2016.8.17|

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