体験談〜本人の声、家族の声〜

認知症の人と家族の会 
会報誌「ぽ〜れぽ〜れ」

2019年3月号(464号)

ー お便り紹介 ー

藁(わら)にもすがる思い岩手県・Bさん 女

90歳代の義母は昨年4月に脳梗塞で倒れ、転院先(リハビリ科)の勧めで介護認定を受けました。入院前とあまり変わらぬ様子で安心していましたが、体力が落ちてきて、リハビリを開始しました。倒れる前と後での義母の言動から、ずっと以前からアルツハイマー型認知症だったかもと、心が揺れた時期もありましたが、今はできるだけ長く元気でいてほしいと、藁にもすがる思いです。

発信が大事京都府・Dさん 女

人口減少や核家族化などの中で、家族介護のあり方も変わってきています。医療の進歩により、生命としては長い期間生きられるようになったと思いますが、認知症への対応や、社会の受け皿としては追いついていないように思います。
ただ、以前は「介護」は限られた人が対象であったのが、これから増々、社会の問題、課題となるように思います。まさに、「我がごと丸ごと」であり、一人ひとりが悔いなく生きられる社会の構築への発信が大事なのではないでしょうか。

焦らず、慌てず、諦めず…高知県・Fさん 男

一昨年9月に、アルツハイマー型認知症の妻(88歳)が心不全で亡くなった。12年の在宅介護ができたのは、私のできないことを、デイサービスを毎日利用し、朝の起こしから、着替え、紙オムツの交換、朝食すべてお願いしていた。焦らず、慌てず、諦めず、時間が解決してくれることを知る。
家で一人の時、とにかく待つ、本人のペースに合わせる。
膠着状態の時、一度リセットして始めからやり直し、何回もやってみる。本人の自発を待つ。
最後は実力行使して、一気に(嫌な時間を短く)やる。起きない時はデイサービス(2人掛り)にお願いする。
相槌を打つ、ウソをつくなど、その場しのぎの芝居をする。ウソも方便で仕方ないが…亡き母への思いは辛かった。
本人の素晴らしい笑顔と「ありがとう」の感謝のひとことに助けられて、介護が生きがいとなった。

介護が新しい仕事埼玉県・Hさん 女

主人の病気がわかって7年目。私の退職直後だったので、介護が新しい仕事になりました。当初、たくさん読んだ本には最悪のことしか書いてなくて、とてつもなく気が滅入りました。今では個人差が大きいことに気付き、自分の時間も大切にしながら、本人に合わせた(つもりの)介護をいろいろな人の助けをうけながらできるようになり、気持ちも楽になりました。
市で開催される「家族の会」で体験談を話したり、聞いたりしたことが一番良かったです。ひとりで抱え込まず、オープンにして、ケアマネさんなど、プロの助けをかりることが大切だと思います。

ー 私の介護体験談 ー

末娘の結婚式京都府支部 60歳代

 

3年前の春、二男二女の末娘の結婚式。夫(60歳代) は、認知症と診断されて9年目。そのころは要介護4で、身の回りのことができにくく、気持ちが不安定になることが多く、病気の進行を感じていました。
私は、病気の夫をあえて大勢の前に立たせることもない、ささやかな身内だけでの結婚式を希望したのですが、娘の描く門出となり、友人、同僚などを招いて盛大な式となりました。
当日遅れないよう、前日に次男と会場のホテルに入ることになりました。込み合う電車で疲れたのか、夫は不機嫌になり、タクシーに乗ろうとせず梅田(大阪市)の地下街をやみくもに歩きだし、夫を見失わないように後をついて歩きます。歩き疲れたところで声をかけて、何とかタクシーに乗り、着いたホテルでは、部屋の鏡を全て隠しました。「明日はどうなるだろう」と不安になりました。

父親とのバージンロード

娘には、「父親とバージンロードを歩きたい」という強い願いがありました。当日、夫のモーニングの着替えは、夫の弟が汗だくで手伝ってくれ、その弟は夫が渋った時にはバージンロードを歩く代役でもあり、式場の扉で控えてくれました。いざ扉が開くと、夫は娘の腕をとり、その大役を果たすことができました。夫に「よかったね、歩けたね」と声をかけると、曖昧でもまんざらでもない様子。言葉には出しませんが、父親としての務めを自覚していたのかもしれません。
式は和やかな雰囲気で終わり、夫も機嫌よく過ごし、前日、当日とも次男が夫のトイレの世話をして、ずっと付き添ってくれ、長男は夫に代わり、親族紹介をしてくれました。長女は、私と新郎の親族や招待客に挨拶をしてくれました。両親へのメッセージで末娘は、「お母さん、自分一人で何かをしようと考えないで子どもたちを頼ってください」と言い添えてくれました。
この日のために娘は、式場のスタッフや友人に夫の病気を伝え、サポートをお願いしていました。新郎やその親族の温かなお気持ちや娘の計らい、子どもたちのフォロー、周囲の配慮があって、夫は上機嫌で過ごし、私も心地よくいられました。
夫が診断された時、子どもたちは複雑な思いを抱いたことでしょう。当時、年ごろの子どもたちに「父親の病気を理由に尻込みをするような人を恋人や伴侶にするな!」と伝えたことがありましたが、皆おおらかな良き伴侶に恵まれました。夫のあるがままを自然体で応じ、頭が下がる思いです。

子どもたちに教えられた1日

むしろ、私が日々の介護の中で気持ちが挫けそうになり、大変な思いは避けたい、「あえて夫を大勢の前でさらすことはない」など、後ろ向きになっていたことに気づかされます。
夫の行動の困難さに目がいき、いろいろな可能性に限界を作っていました。まだまだ夫も私も世界を拡げられると、子どもたちに教えられた1日でした。

〝認知症の 夫は娘に 腕取られ つられ踏み出す バージンロード〟

※ 会員様からのお便りを原文のまま掲載しております。