体験談〜本人の声、家族の声〜

認知症の人と家族の会 
会報誌「ぽ〜れぽ〜れ」

2020年6月号(479号)

ー お便り紹介 ー

自分だけではないとわかっていても三重県・Bさん 男

80歳代の母は、アルツハイマー型認知症の中期と診断を受けております。易怒性や暴言癖がひどく、こちらが耳をおおいたくなります。また、その母からの午前中の電話攻勢にも当方は辟易しましたが、デパケンとメマリーの相乗効果でしょうか、おかげさまで、このところ、止みつつあります。
その一方で、取り繕いがうまいせいか、なかなか周囲の方に対し、自身が認知症を患っているとは思わせないところがみられます。こうした介護の苦労は自分だけではないと頭ではわかっているものの、思わず、こちらも言葉を荒げることもしばしばあります。

ストレスがたまる一方群馬県・Cさん 女

特養に入っている母とも、2カ月以上会えなくなってしまいました。テレビで、会えない家族のために、せめてもと、窓越しやテレビ電話で会えるようにしているとあり、私も施設の相談員に「ガラス越しでも顔が見られるといいですね」と言うと、案の定、彼の返事は「ハァ…」でした。
先日のNHKのEテレで、1947年に出されたカミュの「ペスト」の再放送をやっていました。今また急に読まれだし、出版社は増刷しているとか…。小説の舞台はアルジェリアの小さな町で、ペスト菌が蔓延し、恐れおののいている様は、まさに、今、私たちの置かれている状況と同じ。70年以上前にカミュが予言してたかのように思えました。ちなみにカミュはこの「ペスト」の小説に、1945年に終わった第二次世界大戦中のヒットラーのナチスドイツへのレジスタンスを託したのではないかとも言われています。
まだまだ終息の見えない「コロナの脅威」にストレスがたまる一方ですね。亡くなった女優の樹木希林さんが言ってました。「苦しい時こそ、笑う、笑う、笑う、そしてそっと自分の頭をなでてやるのよ」と。私も夜、顔を洗った後、鏡に向かって大きく口を開け、大笑いを3回します。そのうち本当におかしくなって、自然に笑ってしまいます。

新型コロナウイルスの時間泥棒滋賀県・Eさん 男

私の家内はアルツハイマー型認知症、要介護5。約9年の在宅老々介護の後、平成29年10月にグループホームに入居。以来、毎日面会に行き、施設周辺を歩き、公園のベンチでひと時を過ごす事を日課としておりました。
ところが、2月末に施設から新型コロナウイルスの関係で面会禁止との連絡がありました。私は、施設に毎日の歩行訓練と、Facebookに日常生活の様子をアップして欲しいと要望をしました。要介護5になり、体力も落ち、自力歩行も困難になりつつある時、毎日の運動ができなくなる事で、より身体能力が低下していく事を危恨しております。
3月にリハビリパンツ、パットを施設に持参し、玄関先で渡すだけでしたが、職員の機転で2階の窓から顔を出させてくれて、私は道からの面会になりました。まるで、ロミオとジュリエットみたいな感じ。彼女は私を認識して少し哀しそうな表情をしましたが、しばらくすると笑顔がでました。
私が毎日面会に行くのも、少しでも多く、長く、彼女との時間を共有したいとの思いからです。今回の新型コロナウイルスで面会ができず、私たち二人の貴重な時間が奪いとられるのは耐えられない苦しみです。
今のところ終息の見込みもなく、いつまで続くのかも解らずストレスがたまっていく毎日です。5月8日にロミオとジュリエットに糸電話が開通しました。

毎日元気に通所広島県・Gさん 女

皆様お元気でお過ごしの事と思います。おかげさまで、我が家(夫と私の二人)は変わらなく暮らしております。緊急事態宣言が発表されても、夫はどこ吹く風で、毎日元気に通所できています。もし、施設が閉鎖になったら…、毎日家での介護になることも覚悟してはいますが、今、通所できるところがあるありがたさと、介護して下さる皆様には、本当に感謝の言葉しかありません。感染防止のため、私用もすべて中止になりましたので、泊りや臨時の通所はキャンセルし、今は週5回通所しております。
今の一番の心配は、私が感染してしまう事です。認知症の夫を残しての入院や介護は不可能なので、十分気をつけております。また、介護仲間と電話やライン等で連絡しあい、孤立しないようにしています。近いうちに終息することを願い、皆様に再会できる日を楽しみに、日々の暮らしを大切にしたいと思っております。

ー 私の介護体験談 ー

わずか5段の階段をめぐって京都府支部 70歳代

試行錯誤の日々

現在、アルツハイマー病で要介護5の妻は小規模多機能型施設を利用しています。昨年末頃から妻の自立歩行が怪しくなりました。施設への通いや泊りの送迎時、一番困ったのが玄関前の5段の階段の昇降でした。それまでは体を支えれば自力で昇降ができていましたが、そのうち足が前に出なくなりました。不思議なことに1歩目を踏み出すとその後は足が出ます。だんだんとそれも難しくなり対策を考えなければならなくなり、いろいろと試行錯誤をしてきた経過をまとめてみました。

1.おんぶベルト、介助ベルト
おんぶベルトは、お尻全体を包むような布地とシートベルト状のベルトで出来ています。立ち上がり時に腰に負担がかかり私が腰を痛めてしまいそうなのでやめました。介助ベルトは、介護者用の持ち手があり安全にサポートできるのですが、妻の腰が細いため、しっかり腰にとまらずこれもやめました。

2.一般の車椅子での昇降
介護タクシーの運転手さんもやっている方法です。私も何回か試してみて下降は何とかできましたが、昇るときは力不足とコツがわからず無理でした。

3.電動階段昇降機
専用の車椅子との組み合わせで電気で階段昇降をしますが、操作者に70歳以下の年齢制限があることと、実際に使って頂く施設のスタッフが操作が難しいとの意見でこれも採用出来ませんでした。

4. スロープ板
最終的に現在使っているのが幅70cm、長さ2.8mのスロープ板を階段にかけて車椅子ごと昇降する方法です。傾斜が約15度なので車椅子を上げるときに力がいりますが、施設のスタッフが頑張ってくれて続けられています。

スタッフとワンチームになって

小規模多機能型施設の施設長でもあるケアマネジャーは、初めはあまり乗り気ではありませんでした。妻の送迎時、「階段昇降が難しくなったらこの施設の利用を諦めるか階段の無い家に引っ越すしかないのでは」と言っていました。私が次々と対策をしていく中で、ケアマネジャーのほうが熱心になり、介護用品の会社と打ち合わせたり、実際に介助するスタッフと話し合ったりしました。妻の歩行は当初より格段に衰えている状況にもかかわらず施設利用を続けられるように考えてくれるようになりました。
一連の試行錯誤をしていく中で、スタッフの皆様との信頼が深まりました。介護家族の私と専門職のスタッフがワンチームとして妻の介護をする体制が出来たと思っています。

※ 会員様からのお便りを原文のまま掲載しております。