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一挙掲載!「2020 認知症とともに生きるまち大賞」

コラム町永 俊雄

▲今年の「まちづくり大賞」の表彰式はオンラインでの開催。受賞団体の人々が画面に映り、選考委員が取り囲んでの記念撮影。左から町永俊雄、丹野智文、鈴木森夫(画面)、永田久美子、延命政之、星野真澄の各選考委員。

今年も「認知症とともに生きるまち大賞」の表彰式と記念シンポジュームが開かれた。
例年なら、受賞した全国の団体が集まり、表彰状を受け取る認知症当事者たちのとびきりの笑顔がはじけていたはずのイベントだ。

今年はオンラインでの開催だ。
コロナの時代「でも」開いたイベントではない。
コロナの時代「だからこそ」開いたイベントだ。
それは、認知症でも頑張ろう、ではなく、認知症だからこそ、できることがあるということと全く同じだ。

では恒例の一挙掲載。
これはきっと新しい年に向けての私たちの覚悟と力と、そして希望になる。



<本賞・3団体>

●東京砂漠に共生地域を創る。ファーム・エイド東五反田(東京・品川区)

東京都品川区の五反田といえば、近年はITなどのベンチャー企業が集積し、シリコンバレーにちなんで五反田バレーと呼ばれたりする。そんなオフィス街の近接地域は有数の高級住宅地。さらに大病院にマンションがひしめく。
最先端の都市部というのは暮らしのつながりが希薄になりがちだ。そうしたところから、地域の認知症の人や住民、医療、介護、学生や地元の商店などが立ち上げた取り組みがファーム・エイド東五反田、それは新たな地域創生の取り組みのようだ。
ここでは地域にある様々な既成の活動が有機的につながっていく。
例えば「みんなの談義所しながわ」は認知症の人と販売ブースを地域に出し、グループホームに入居の書道の先生は、子供たちの書道教室を地域交流スペースで開くなど、それぞれの別個の活動のそれぞれの点をつなげ、線にし、やがて地域に開かれ、面となって、多彩な活動を生む循環となっている。
都心での、当事者を主体とした新たな地域共生社会の創出としてユニークである。
 

●地域の認知症観を変え続ける「ヒデ2」とその仲間たち(神奈川・鎌倉市)

1組のフォーク・デュオがいることで、地域の人々の認知症へのまなざしが変わっていく。そのフォーク・デュオとは「ヒデ2」、10年前に若年認知症の診断を受けた近藤英男さん(67)と支援団体代表の稲田秀樹さんの「ヒデ」コンビである。
神奈川県内を中心にすでに100回を超えるライブをこなしてきた。歌うのは、認知症カフェにイベント会場、講演会に路上など多彩だ。聴衆も保育園児やその親たち、高齢者や医療介護職の人たちと、呼ばれればどこにでもいくことをモットーとしている。
ヒデ2の活動は、単体では成り立たない。受賞したのは、ヒデ2と「その仲間たち」なのである。その周囲に彼らの歌を聴く人々とその活動をサポートする広範な仲間がいることが大きい。思えばヒデ2とは、認知症の人とそうではない人との、この社会の最小単位の共生モデルだ。
私たちの地域にはヒデ2がいる。それが地域自体を大きく変革させていく原動力となっている。横にどこまでも水平に広がる実践活動といっていい。


●図書館でつどおう! マスターズCafeのにぎわい(大阪・阪南市)

図書館での認知症カフェが各地で取り組まれている。
阪南市立図書館のマスターズCafeもその一つだが、ここの特徴は常に変化と進化を続けていることである。もともとは「認知症にやさしい図書館」プロジェクトとして始まって、当初は男性介護者の会のメンバーから始まったカフェだったが、やがて認知症の当事者からマスター希望が相次ぎ、今や賑やかに認知症当事者のマスターズCafeに様変わりだ。
ここに行けば認知症の正しい情報に接することができるのは図書館だから当然だが、それ以上にここに行けば認知症の人や家族に会える。それもとても気楽にカフェに行くようにして。
それだけではない。いつの間にかここに手話サークルの人たちが手話カフェも始め、さらにそこには地域包括支援センターや市役所の介護保険課の人も顔を出し、いつも間にかコミュニティセンターとしての賑わいを見せている。
まさに認知症の人たちとともに作り上げたマスターズCafe、新しい「公共」の姿だろう。


<ニューウェーブ賞・3団体>

●認知症の人の外出支援・Dトイレプロジェクト(東京・町田市)

町田市は住民と認知症本人主体の活動が活発だ。まちだDマップというWEBサイトを見れば、DカフェやDブックス、DワークショップにDサミットなど様々な取り組みがある。
このDはディメンシアの頭文字だが、今度は街中にオレンジのDトイレと記したステッカーが貼られているのを見かけるはずだ。
認知症の人が家族や同伴者と外出する際の障壁がトイレである。自分一人だと利用に迷ったり、介助のために二人で入ることができるトイレとなると見つけるのが難しい。
そのことで本人は外出をためらい、引きこもりにもなりかねない。
ならば、と町中の病院や薬局、企業などと掛け合って、自由にトイレを利用できるようにし、外の目立つところにDトイレのステッカーを貼るようにお願いして回った。
認知症の人たちとDトイレツアーも実施。やがては街のあちこちに当たり前にDトイレが増えていけばいい、と関係者は意気込む。
一番確かな外出支援であり、認知症バリアフリー社会の姿としての役割は大きい。


●境界線を飛び越せ! オンラインでつながろう「ボーダレス・ウイズ ディメンシア」(愛知・名古屋市)

名古屋のソーシャルワーカーであり地域包括の職員である鬼頭史樹氏は、新型コロナウイルスの事態に悩んでいた。これまでのつながりは途切れてしまうのか、積み重ねてきた活動が止まってしまうのか。
そこから始めたオンラインの取り組みが彼を目覚めさせた。オンラインは一気に距離の境界線を越える。これまで名古屋地域中心だったが、北海道や沖縄の人にもつながる。つながりは自由に広がっていく。
これまでやってきたことで何が本当に大切なことなのかも見えてきた。オンラインで働き方が変われば、三日か四日働いて、あとは自分の考える社会福祉の実践もできるかもしれない。
そんな構想が産んだのがこの「borderless -with dementia-」というユニークで多彩な取り組みだ。地域も職種業種も超えて、これまでにないつながりの可能性が見えている。
その時彼は気付いた。「そもそも認知症の人とそうでない人との間に境界線はあるのか」
境界線は、自分が自分の中に作っているのではないか。
「borderless -with dementia-」は境界線を超えて、新たな領域に踏み出そうとしている。


●世代を超えて認知症川柳のまちづくり(宮崎・高鍋町)

高鍋町は宮崎県で一番小さな町だ。それだけに町民の結びつきも強い。だから認知症に安心の町への思いを込めて何かできないか。高鍋はもともと豊かな文化の風土を持つ。ならば誰にもできる川柳がいいではないかと、「認知症架け橋川柳」の募集事業を開始。今年で5年目だ。
当初の認知症のお世話の大変さやつらさを詠む作品から、今は理解が深まって、近年の入賞作品に「父と母 ボケても変わらぬ 夫婦愛」、また小中学生の応募も多く、今年の小学生の入賞作は「おばあちゃん たまには同じ へやでねよう」がある。
それぞれの川柳にある家族や夫婦の物語は、高鍋町の誰にとっても「じぶんごと」だ。
毎年入賞作品がのぼり旗になって高鍋街の道に沿ってはためく。
この取り組みは肩に力が入っていないだけ、地域住民の想いにあふれている。

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NHK厚生文化事業団 第4回認知症とともに生きるまち大賞

|第161回 2020.12.15|