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「認知症とともに生きるまち大賞・2023」受賞団体発表 〜この一年、まちには何が生まれ、何を変え、何をめざすのか〜

コラム町永 俊雄

▲下段は、2019年の「まち大賞」の表彰式の様子。思えば、コロナの事態でリアルな表彰式はずっと開けなかった。来年1月28日に東京国際フォーラムで4年ぶりに開催される。

2023年、「認知症とともに生きるまち大賞」の受賞団体が決まった。
新型コロナウイルスの日々をくぐり抜けての各地域の取り組みはどこか晴々とした気分が漂う。それはコロナという試練を経て、これからの時代を開く方向性が見えてきたところにあるのかもしれない。それはどんなところに感じることができるのだろう。

2023年の受賞は北から西へと、以下の5団体である。

つながる” 羽後町 (秋田・羽後町)
〜うごまちキャラバン・メイトから「うごおたすけ隊」へ〜

● 練り歩き隊が八王子を行く!(東京・八王子市)
~認知症の人が仲間といっしょにまちを変える、明日を創る~

● わすれな草の会(大和市若年性認知症の人と家族の会)(神奈川・大和市)
〜発案から発信まで本人中心〜

● チームFCいわくら(京都市)
〜ひとりの当事者から社会参加の場が地域に次々とつながった〜

●  はるそら(若年性認知症サポートセンター)(岡山市)
〜春の空のような「本人の自立と尊厳」が広がれ〜

「認知症とともに生きるまち大賞」には前史がある。それは今から19年前の2004年に始まった「痴呆の人とともに暮らす町づくり」をその源流とし、その実行委員長が長谷川和夫さん、選考委員長がさわやか福祉財団の堀田力さんだった。
だからこのまち大賞は今年が7回目だが、その系譜には20年に及ぶ長い歴史を刻んでいる。それは認知症(痴呆症)の人々ともに、つらさや困難、偏見の中から立ち上げ、より良い社会を目指すとする先人の溢れるような志を受け継いでいる。

今年の各団体の取り組みを見ると、そうした長い歴史の蓄積が反映しているのが大きな特徴だ。それは一見前面に出ているわけではないので見えにくいのだがそれは、この認知症とともに生きる、ということの地域社会での実感であり、成熟である。

例えば、神奈川県大和市での「わすれな草の会」の取り組みは、その始まりは2組の若年性認知症の人とその家族がその悩みを地域包括支援センターに相談したことから始まっている。
そこから「本人ミーティング」が生まれ、それは、市、社会福祉協議会や地域の支援資源とつながり、さらには本人発信や本人たちの地域貢献へとなめらかに広がっていく。

湖面に一つの小石を投げ込むことで、次々と波紋が広がっていく。地域がそのような呼応力を備えてきている。
かつて、地域自治体に相談に行っても、「この地域には認知症の当事者はいません」と突き放された現実から(今でもこうした現実が完全に払拭されたわけではないが)、水面下では大きな変化が起きている。「認知症とともに生きる」ことの定着が、まちづくりを支え始めたのだ。

それは、他の取り組みにも同じ構図として現れている。
京都市の「チームFCいわくら」では、「駅カフェ」のイベントに参加したひとりの認知症当事者の鈴木貴美恵さんの思いから新たな動きが始まっている。地域包括が迅速に動き、彼女を中心に据えることで地域の様々な取り組みがイノベーションされていった。

ここでの取り組みは新たな活動を生んだというより、本人を中心に据えることでそれまでの農園や木工作業、キッチン、カフェといったそれぞれの活動を地域住民や障害のある児童などとともに再編成し、新たな地域の風景としてのイノベーションにつなげたのである。
チームの「FC」とは、もともと木工製作などの工房から、ファクトリーの意味だったが、今や、「FC」は地域のファンクラブの意味合いになっているとする担当者の言葉は、地域が楽しさの中に変革されたことの証言だろう。

長く続く活動に時代の変化を取り入れることで、絶えず新鮮な活動にグレードアップしているところがある。
高齢化率39%を超える秋田県羽後町の「つながる羽後町」は、今から15年前にすでに認知症サポーター養成研修に取り組み、さらに福祉関係者、民生委員児童委員だけでなく商工会、学校、消防に警察、銀行やタクシーなど、文字通りまちぐるみで認知症のキャラバンメイト研修に取り組んだ。これは元々の住民の支え合いネットワークと結びつき、羽後町の力強い基盤となっていた。

だから、羽後町の新たな取り組み「ハッピー運転教室」は、いわゆる高齢者の免許返納活動とは一線を画す。元々はサロンと呼ばれる認知症カフェに集う高齢者自身からの発想で、自分の運転能力を確認しようという本人たちの自主性から始まっている。免許の返納は、その運転能力の結果に基づいたあくまでも本人の自己決定、本人主体なのである。

そこから新たな外出支援としてのボランティアの「うごおたすけ隊」と言った新しい活動が生まれるなど、本人主体のまちづくりが地域体質として根付いていることは、住民がこれまで育ててきたネットワークがすでに地域のインフラとなっている証である。

認知症を取り巻く切実な現実から始まったのが、岡山の若年性認知症サポートセンターの「はるそら」だろう。
「はるそら」は、活動を立ち上げた代表の多田美佳さんの、認知症と診断された夫が意に沿わぬ入院や拘束の現実に直面したことから立ち上がった。その取り組みは、単なるセルフヘルプ(自助)のグループの枠を押し広げ、地域に、社会に開く形で形成されていく。介護家族の中に閉じるのではなく、問いかけるようにして地域に開き続けたのが特色だ。

「はるそら」がまず掲げたのが「本人の自立と尊厳」だ。こうした理念をまず打ち出したこと自体が、時代の風を感じざるを得ない。認知症基本法の人権や共生が、ここにすでに反映していると言ってもいいかもしれない。
自身の経験した悔しさ、つらさ、怒りと涙は、常に「本人の自立と尊厳」に立ち返ることで、今多くの当事者やその家族と共に自律的な居場所やピアサポート、専門知識のゼミナール、就労支援など広範に展開させるエネルギーとなっている。

さらに加えるなら、「はるそら」の活動は地域の大学の若い世代との交流が重ねられていることだ。時代を変える力が、認知症の当事者から次の世代にバトンを手渡すようにして受け継がれている。それは、春の空のような新しい季節、新しい時代のおとずれのようにも感じられる。

軽やかにしかし、確実に地域を変革していく。
それが八王子の「練り歩き隊」である。「練り歩き隊」という「名のり」自体に、認知症本人の地域の一員としての晴れやかさ、誇らしさを感じ取ることができる。

ユニークなのは、そのネーミングだけでなく取り組みにもある。認知症の本人たちがグループとなり、八王子市内の図書館と大手スーパーを「練り歩き」、実際に本人たちがその使い勝手や改善点を提案するのである。図書館では、自分の読みたい本を探す。まず図書館の配列や分類で戸惑う。自分の好きな本をこれからも利用したいという個人の思いが実現するか。
スーパーでは、さらに練り歩き隊の本領が発揮される。晩酌のおつまみを探したい。一人分の量のものはあるか。セール品や、タイムセールの値札がよくわからない。陳列の表示がわからない。自動清算機は使えるだろうか。レジの対応はどうだろう。

この取り組みには、図書館やスーパーの担当者がきめ細かく対応する。そして練り歩きの前とその後がどのように改善されたのか、本人たちの指摘はどう受け止められたのかまで検証される。

図書館やスーパーの担当者は、地域社会の一員であるという思いから、この活動を共に育てている。ここにはすでに認知症の本人と施設や企業との協働があり、この活動の広がりが、共に生きるとする地域の「共生社会」への具体的な実践となっていると言えるだろう。ここを起点としてこれから先、地域全体にどのような広がりを見せるのだろう。

以上、それぞれの受賞団体の概要を記した。もちろんそれぞれに、これ以外のたくさんの取り組みの要素を見出すことができる。固定の枠に収まらない柔軟さ、それが暮らしでありまちづくりなのである。

まちづくりに、今年さらに明らかになった点がある。
それは「認知症のため」という限定を超えて、認知症であろうとなかろうと、誰もが安心して自分らしく暮らせるまちづくりへと踏み出していることだ。今年応募してきたほとんどの取り組みは、そのように変容している。
誰もが安心して生きていける地域、それは、「認知症」から見ることで具体的になっていく。今年の取り組みは、個別を普遍に押し広げ、誰もの「よりよく生きる」を応援するまちの風景を見せてくれた、そのように見て取れる。

今年6月、「共生社会の実現を推進するための認知症基本法」が成立した。
今年の「認知症とともに生きるまち大賞」はまさに、その「共生社会」の実現を推進する取り組みに重なり合うのではないか、選考の過程から、しきりにそう思い続けてきた。

まもなくの新しい年、2024年にどこのまちにもあたたかな陽射しが降り注ぎますように。

|第266回 2023.12.14|

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