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渋谷発オンラインフォーラム 超高齢社会を生きる ~コロナ禍に考えるフレイルと長寿の生き方・備え方~ 

概要

ー その1 登壇者のみなさん フレイルとは ー

2021年3月14日、東京渋谷でフォーラムが開催され、インターネットでライブ配信されました。
パネルディスカッションには、広島県在住の家族社会学者・春日キスヨさん、老年病学の専門医で東京大学准教授の小川純人さん、さまざまな活動を通じて高齢者や生活困窮者を支援している小島希世子さんが登壇し、長寿の生き方・備え方について、意見を交換しました。
人生100年時代のキーワードとして注目されているのが、加齢とともに身体が衰えていく状態を示す「フレイル」です。小川さんはフレイルの概念について解説する中で「概念には『フレイルは可逆性』だということも含まれている。フレイルの段階であれば、対策を打つことで低下した機能を回復させることができます」と強調しました。(7:15)

ー その2 人生100年の現実ととらえ方 ー

オンラインフォーラム渋谷の第一部では「超高齢社会を見つめる」というテーマで、家族社会学者の春日キスヨさんと福祉コーディネーターの町永俊雄さんが対談を行いました。
フレイルに直面しながらも夫婦で支えあって暮らす中村正義さん・朝子さん夫妻の日常を動画で紹介。正義さんの「なるようにしかならない」という言葉が印象的でした。
本来ならば長生きができて幸せなはずの長寿社会でさまざまな問題が起きていることについて、春日さんは、「みんなが長生きする社会に急になってしまったから、どう生きればいいかわからない高齢者がたくさんいるのではないか」と指摘。
「生身の自分がどうやって死までたどり着けるか。誰の世話を受けてどこで暮らすのか、『老い支度』が必要だと思います」。(9:27)

ー その3 ピンピンコロリは夢物語 ー

家族社会学者の春日さんが、さまざまなデータを引用しながら高齢者の置かれている現状を解説しました。
フォーラム当日に参加者300人に行われたアンケート調査によると、「自分は何歳まで生きると思いますか?」という質問に対して、約半数が「80歳代」と回答。12%は「70歳代」と答えました。
しかし実際の死亡者数のピークは、女性は93歳、男性は87歳。95歳くらいまで生きる人がたくさんいます。さらに、100歳以上まで生きる人もどんどん増えるだろうという予測も出ています。
亡くなる直前まで自立して過ごす「ピンピンコロリ」が理想とされますが、春日さんは「90代半ばまで生きるとピンピンコロリはなかなか実現できません。最初はピンピンでも、身体能力が衰えるヨロヨロ期が続き、最期はドタリ。将来そうなる覚悟と準備が必要です」と話しました。(8:31)

ー その4 互助・共助の希望と限界 ー

神奈川県藤沢市内にある貸農園で行われている地域交流の取り組みを紹介。
一区画7坪の農地の利用者同士が農作業を通じてふれあいを楽しんでいます。
農園を運営する小島希世子さんは「農業は自然に体を動かせるだけでなく、植物を育てることは心の癒しにもなります」と話します。農園では、ホームレスや引きこもりの人が農業を学ぶ「農スクール」も開催。最近は、高齢者の参加も増加していると言います。
昨年、農スクールを卒業した金子誠二さん(74)もその一人。農スクールの活動を通して、人と人がふれあう場としての農業の魅力を実感した金子さんは、近所の国有地を買い取って小島さんと同じような農園を造る計画を立てています。
「農業のすばらしさを地域の高齢者や若い世代に伝えていきたい」と金子さん。熱い思いを胸に、金子さんの第2の人生が始まろうとしています。(7:32)

ー その5 つながり作りが備えの一歩 ー

フォーラムの会場では、横浜市都筑区の地域住民による、高齢者にお弁当を届ける取り組みが紹介されました。
「お手紙弁当」という名前の通り、お弁当には注文した人それぞれに向けた手書きの手紙が毎回添えられています。返信が届くなど、お弁当の配達を通して温かい関係を築いてきました。その一方で、孤立した高齢者の現実も浮かび上がり、「高齢者が抱えるさまざまな悩みに、地域はどう向き合っていけばいいのか」が、新たな課題となっています。
パネリストの小川純人さんは「高齢者はただでさえ活動量が低下し、外出の機会が減ってしまいがち。さらに今はコロナ禍で孤立しがちな環境下で過ごしています。
それぞれが『人と接する機会を作ろう』『地域にかかわろう』という意識を持つことが大切です」と話しました。(11:03)

【2021年7月29日公開】

出演者

春日 キスヨ(かすが きすよ)さん

家族社会学者

九州大学教育学部卒業、同大学大学院教育学研究科博士課程中途退学。京都精華大学教授、安田女子大学教授などを経て、2012年まで松山大学人文学部社会学科教授。専攻は社会学(家族社会学、福祉社会学)。父子家庭、不登校、ひきこもり、障害者・高齢者介護の問題などについて、一貫して現場の支援者たちと協働するかたちで研究を続けてきた。著書に『介護とジェンダー:男が看とる女が看とる』(家族社、1998年度山川菊栄賞受賞)、『介護問題の社会学』、『家族の条件 豊かさのなかの孤独』(岩波書店)、『高齢者とジェンダー:ひとりと家族のあいだ』(ひろしま女性学研究所)、『百まで生きる覚悟 超長寿時代の「身じまい」の作法』(光文社)など著作多数。

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小川 純人(おがわ すみと)さん

東京大学大学院医学系研究科 老年病学 准教授

1993年東京大学医学部医学科卒業。JR東京総合病院内科、日本学術振興会特別研究員を経て2001年に米国・カリフォルニア大学サンディエゴ校細胞分子医学教室に留学。骨粗しょう症や認知症といった老年疾患とホルモン・栄養の関連性などについて研究を重ねる。2005年に東京大学老年病科助手・文部科学省高等教育局医学教育課専門官(併任)となり、2013年より現職。フレイルやサルコペニアへの対策を講じるとともに、高齢者に全人的包括的な診療を目指している。日本老年医学会、日本老年学会、日本骨粗鬆症学会、日本動脈硬化学会、日本サルコペニア・フレイル学会など多くの学会の評議員・委員を務める。

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小島 希世子(おじま きよこ)さん

株式会社えと菜園 代表取締役、NPO法人農スクール 代表理事

慶應義塾大学卒業。野菜の産地直送の会社に勤務した後、熊本県の無肥料・農薬不使用栽培・オーガニック栽培に取り組む農家直送のネットショップを開設。2009年『株式会社えと菜園』として法人化した。2011年にはNPO法人農スクールも立ち上げ、消費者に農業を身近に感じてもらう『体験農園コトモファーム』をはじめるとともに、ホームレスや生活保護者の就労を目的とした野菜づくりを教えている。「横浜ビジネスグラン プリ2011ソーシャル部門」および、「内閣府地域社会雇用創造事業第1回社会起業プラン・コンテスト」で最優秀賞を受賞。著作に『ホームレス農 園 命をつなぐ「農」を作る!』などがある。

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町永 俊雄(まちなが としお)さん

福祉ジャーナリスト

1971年NHK入局。「おはようジャーナル」キャスターとして教育、健康、福祉といった生活に関わる情報番組を担当。2004年からは「福祉ネットワーク」キャスターとして、うつ、認知症、自殺対策などの現代の福祉をテーマに、共生社会の在り方をめぐり各地でシンポジウムを開催。現在は、フリーの福祉ジャーナリストとして活動を続けている。

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