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長寿の未来フォーラム 記憶の見方が変わる 〜高齢者心理と認知症治療からひも解く〜

概要

ー 出演者紹介 ー

2022年9月25日(日)、愛知県名古屋市で「長寿の未来フォーラム」が開催されました。
テーマは「記憶の見方が変わる~高齢者心理と認知症医療からひも解く~」。会場参加とオンライン参加が選べるハイブリット型のフォーラムです。
パネリストの遠藤英俊先生(認知症専門医)は、「最近は認知症の診断基準が少し変わり、記憶力の低下だけではなく、物事ができなくなる、注意力が落ちるというのも認知症の概念に含まれるようになりました」と話します。遠藤先生のクリニックを受診する人の約3割は認知症予備軍。予防を意識して診療に当たっているといいます。
心理学を研究する神戸大学大学院の増本康平さんは「年を取るとすべての記憶が衰えるわけではなく、維持される記憶、若者より優れている記憶もあります。老いと向き合うにはそれを知ることが大事」と話します。
フォーラムには認知症の当事者、物忘れに悩んでいる方、そしてその支援者の方も参加。「記憶の新しい見方」について理解を深めました。(6:19)

ー 記憶力の低下 ー

記憶力の低下に悩む人たちの様子を動画で紹介。
瀬戸市に住む谷本喜久枝さん(86)は、一年ほど前からスマートフォンの操作が覚えられない、人の名前が思い出せないなど、物忘れが目立つようになりました。「物忘れがさらに進行して何もできなくなったら、厄介者になる」と葛藤しています。
2年前に認知症と診断された高木正巳さん(85)は、新しいことは覚えられないものの、昔のことはよく覚えていると言います。
パネリストの増本さんは「衰えやすい記憶は、調理の手順などの『ワーキングメモリー』と、昨日会った人の名前などの『エピソード記憶』と紹介。その一方で感情を伴う記憶は記憶に残りやすい」と説明。
遠藤先生は、記憶力の低下の対処法として「忘れやすいことをメモ書きしておくこと」や「回想法」を紹介しました。(11:56)

ー 松原さんとチームオレンジ ー

瀬戸市に住む松原務さん(86)は、80歳まで瀬戸物の絵付師として活躍。趣味も多彩で、活動的な日々を過ごしてきました。しかし認知症と診断されてから生活が一変。活動範囲が狭まり、家で寝て過ごすようになってしまいました。
そんな松原さんを認知症当事者の会「おれんじドア・せと」がサポート。認知症について学んだ地域ボランティア「チームオレンジ」のメンバーに呼びかけ、松原さんが得意とする囲碁や畑仕事で力を発揮できる機会を設けました。コミュニティ農園で野菜の栽培を指導したり、囲碁を打つなど、前向きに会話を楽しむ松原さん。
おれんじドア・せと代表の近並友里さんは「なにかをしてあげる、やってもらうではなく、当事者と地域のサポーターがやりたいことを一緒にやることが、いい結果につながっていると思います」と話しました。(8:07)

ー 長寿社会への提言 ー

フォーラムの最後に、パネリストが長寿社会に向けた提言を行いました。
増本さんはこう話します。「人生は『記憶』で形作られています。高齢期に人生を評価する上で思い出されるのは、楽しいことやつらかったことなどインパクトのあること。さらに『人生の最後』がいいものでなければ、自分のそれまでの人生を受容できないという研究もあります。人生の最後をどう生きるかがとても重要です」。
遠藤先生は「生きがいややりたいことを紙に書いて具体化させてみる」ことを勧めます。「認知症のリスクを減らし、認知症を予防するには、有酸素運動、食べ物でも一定程度の予防はできます。また、社会的交流も重要。仲間を作り、『なったらなったで大丈夫』という環境を作っていくことが求められています」。
近並さんは「認知症になるといろいろなことを忘れていきますが、それを補い合える仲間と出会い、ともに楽しんでほしい。その方の持つ可能性を大切にしたいと思っています」と話しました。(6:34)

【2023年1月10日公開】

出演者

遠藤 英俊(えんどう ひでとし)さん

いのくちファミリークリニック<愛知県稲沢市> 院長、名城大学 特任教授、NPO法人シルバー総合研究所 理事長

1982年滋賀医科大学卒業。名古屋大学 老年科で医学博士取得後、総合病院中津川市民病院<岐阜県>を経て、国立長寿医療研究センター(旧・国立療養所中部病院)老年内科に勤務し、内科総合診療部長、研修センター長などを歴任。認知症や医療介護保険制度などを専門とし、著書出版多数。国や地域の制度・施策にも関わりが深い。NHK『クローズアップ現代』など出演。ロシアやタイなど海外での認知症関連の研修や、認定認知症看護師研修も担う。2021年、愛知県稲沢市に「いのくちファミリークリニック」を開院。

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増本 康平(ますもと こうへい)さん

神戸大学大学院 人間発達環境学研究科 准教授、同研究科 アクティブエイジング研究センター 副センター長

2005年大阪大学大学院 博士課程修了。博士(人間科学)。大阪大学大学院 人間科学研究科 助教、島根大学 法文学部 講師を経て、2011年より現職。2018年スタンフォード大学 長寿センター 客員研究員。感情、注意、記憶、意思決定といった、人の情報処理の仕組みを明らかにする認知心理学の立場から、高齢期のwell-beingに関する研究に従事。著書に『老いと記憶 加齢で得るもの、失うもの』『老いのこころ』(共著)など。

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高木 正巳(たかぎ まさみ)さん
谷本 喜久枝(たにもと きくえ)さん
松原 務(まつばら つとむ)さん

愛知県瀬戸市に暮らす、高木 正巳さん、谷本 喜久枝さん、松原 務さん。現在85歳の3人は、2022年4月から瀬戸市の認知症ピアサポート活動支援事業として始まった「おれんじドア・せと」の集いに毎月参加。もの忘れがあるなかで、どう工夫して日々を楽しく過ごすか、やりたいことをどう実現するかなど、顔を合わせながら話し合っている。

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近並 友里(こんなみ ゆうり)さん

社会福祉法人瀬戸市社会福祉協議会 瀬戸市基幹型地域包括支援センター 看護師、瀬戸市認知症地域支援推進員

2016年瀬戸市社会福祉協議会へ入職。やすらぎ地域包括支援センター 看護師を経て、基幹型地域包括支援センター 看護師、認知症地域支援推進員となる。ある若年性認知症の人と家族に出会い、地域の理解や支援する人のつながりがいかに不足しているかを痛感。そこで、認知症カフェで認知症の人とともにコミュニティー農園を作り、本人と地域の人が出会う場を企画。また、認知症についての理解を広げるため、認知症サポーターとともに出張カフェを行っている。2022年4月からは、認知症本人交流会「おれんじドア・せと」の運営に関わりながら、本人、家族、地域住民それぞれが支え合う地域づくりを模索している。

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三宅 民夫(みやけ たみお)さん

アナウンサー 立命館大学産業社会学部 客員教授

1952年名古屋生まれ。75年NHK入局。岩手、京都勤務を経て、85年東京アナウンス室へ。『おはよう日本』『紅白歌合戦』など、さまざまな番組を進行。その後、日本のこれからを考える多人数討論を長年にわたり司会すると共に、『NHKスペシャル』キャスターとして、「戦後70年」や「深海」など大型シリーズも担ってきた。2017年NHKを卒業し、フリーに。現在は、NHKラジオ『三宅民夫のマイあさ!』(月~金・R1午前6:40~8:30)、総合テレビ『鶴瓶の家族に乾杯』の語りなどを務めている。著書に「言葉のチカラ」(NHK出版電子版)。

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