クリップ
概要
ー クリップ 1 パネリスト紹介 ー
沖縄県の那覇市民会館で行われた認知症フォーラム。冒頭、3人のパネリストたちが自己紹介を兼ねて、医療、介護、家族それぞれの立場から、自身と認知症とのかかわりについて語りました。精神科医の葉室篤さんは、診断技術や薬が目覚ましく進歩している現状に触れ、早期発見や治療の可能性が広がりつつあることを報告。20年以上介護の仕事にたずさわってきた有田恵子さんはここ10年くらいの認知症ケアの変化について「当初は、食事や排泄、入浴といった身体介助がケアの中心でしたが、本人に寄り添うことが最も大事、という考え方に変わってきている」と話しました。認知症と診断された義母の介護をしている仲里千代子さんは「認知症になった本人や家族にとって、医療や地域の支えはなにより心強い」と訴えました。(3:23)
ー クリップ 2 認知症の基礎知識 ー
認知症の症状を知っておけば、早期発見が可能です。もの忘れも主な症状のひとつで、体験したことを丸ごと忘れてしまうなど、年のせいによる自然なもの忘れとは違った特徴があります。認知症の人の脳で生じる変化についても、MRIの画像を示しながら説明しました。また、認知症にはさまざまな原因疾患があり、最も多いのは全体の半数を占めるアルツハイマー型認知症です。二番目は脳血管性の認知症とレビー小体型認知症で、原因疾患ごとに現れやすい症状に違いがあります。(4:15)
ー クリップ 3 認知症の診断と抗認知症薬 ー
認知症の疑いがある場合には、問診、認知機能テスト、画像といった検査を行い、総合的に診断します。診断技術の目覚ましい進歩で、早期に認知症を発見し、治療をスタートすることが可能になりました。なお会場の参加者には、葉室医師の指導で認知機能テストを実体験してもらいました。また、認知症の治療薬として従来から使われているドネぺジルのほか2011年に登場した3種類の新しい薬も紹介。それぞれの剤型や効果など、特徴を詳しく説明しました。(5:41)
ー クリップ 4 中核症状とBPSD ー
認知症の症状は「中核症状」と「周辺症状」に大別できます。中核症状とは、記憶障害や見当識障害、判断力の低下のことで、ほぼ全員に見られます。一方、周辺症状は現れる場合と現れない場合があり、症状も暴言、暴力、被害妄想、幻覚などさまざま。対応が難しい症状も多く、家族には大きな負担になります。かつては手が付けられない困った症状とされてきた周辺症状ですが、近年はBPSDと呼ばれるようになり、不適切な療養環境などが原因で症状を発することがわかってきました。また、治療に漢方薬が使われるようになったことも、大きな進歩と言えるでしょう。中でも認知症によく使われるのは抑肝散という処方で、イライラや不安を抑える効果が高いと注目されています。(5:48)
ー クリップ 5 VTR :本人の思いに正直に応える ー
認知症の人の対応に家族や介護スタッフが苦慮するケースは少なくありません。周囲の思わぬ対応が原因で本人が混乱し、問題行動を生じさせている可能性もあるのです。アルツハイマー型認知症と診断され、徘徊や暴言、暴力を繰り返していた石原ナへさんのケースもそのひとつ。夫が亡くなったことを忘れ、消息を尋ねるナへさんに、スタッフがバラバラな返答をしていたことがナへさんを苦しめていたのです。スタッフは話し合いを重ね、夫はすでに亡くなっているという現実を正直に伝えることに決めました。ただ伝えるだけではなく、ナへさんの気持ちに寄り添う努力を続ける家族やスタッフ。ナへさんは少しずつ夫の死を受け入れつつあります。(12:04)
ー クリップ 6 パーソンセンタード・ケア ー
本人の気持ちを想像し、希望に沿ったケアをする「パーソンセンタードケア」という考え方が、認知症介護の現場で広がりつつあります。前回のVTRに登場した石原ナへさんの事例を通して、パーソンセンタード・ケアがどのようなものなのか、説明しました。義母を介護している仲里千代子さんも、パーソンセンタード・ケアに則して母親が生活している環境を振り返り、気持ちを考えてみたことで、介護に対する考え方が変わったといいます。まとめとして、ふだんの生活にも生かしてもらえるような認知症ケアのポイントを紹介しました。(6:30)
ー クリップ 7 VTR:地域とともに歩む認知症 ー
中国人の任紹孟さん(85)は、沖縄が返還される前の1963年に台湾から沖縄へ移住。沖縄市久保田地区でテーラーや中華料理店を経営しながら生活してきました。妻を亡くし、任さん自身も脳梗塞の後遺症で認知症になっています。地域で自治会長を務める新城精二さんは引きこもりがちな任さんを心配し、ことあるごとに声をかけてきました。任さんが地域に溶け込んで生活していければと考えた新城さんは、地域包括支援センターの担当者や民生委員などを交えて話し合いを持ちます。そしてこのまま自宅で生活したいと希望する任さんに、どのような支援が必要なのか、知恵を出し合いました。マッサージの送迎といった日常生活のサポートだけでなく、お誕生会を開くなどさまざまな働きかけで、心を開くようになった任さん。地域ぐるみで任さんを見守る体制が整いつつあります。(11:44)
ー クリップ 8 支援がもたらす地域ネットワーク ー
認知症になった人を地域で支えるには、医療や介護、行政、そして地域の人たちによるネットワークが必要です。理想的なネットワークについて、3名のパネリストが意見を述べました。仲里さんは、義母のシズさんが認知症だとわかったとき、すぐに地域の自治会に公表したそうです。それ以降、シズさんの行動をみんなで見守ってくれるようになりました。本人や家族が地域に発信したことから、いい関係が生まれたのです。有田さんは「いちゃりばちょーでー(何かの縁で合えばみな兄弟だよ)」などの沖縄の言葉を紹介しつつ「沖縄独自の伝統芸能などを通して支援の輪を広げていくことができるように思う」と話しました。葉室さんは「自分だけで抱え込んでしまうのは良くない」とアドバイス。「地域の人が声を掛け合い、介護や医療も加わって認知症の人を支えるネットワークが構築できればと考えています」と話しました。(5:31)
【2012年10月19日公開】
出演者
葉室 篤(はむろ・あつし)さん
医療法人天仁会天久台病院 精神科医師
昭和大学医学部卒。埼玉社会保険病院精神科等を経て2005年より現職。認知症専門医。精神科と在宅をつなぐためのリハビリにも注力。
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有田 恵子(ありた・けいこ)さん
医療法人愛和会 地域密着型サービス課長
首里出身。小規模多機能型居宅介護「うまんちゅ首里」をはじめとする三つの施設を担当。個々の思いに寄り添うケアを大切にしている。
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仲里 千代子(なかざと・ちよこ)さん
認知症家族会みやこ 副会長
宮古島市在住。2006年より認知症の義母を在宅介護、地域の支えの必要を実感。本人や家族の孤立を防ぐため家族会設立に参加。
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