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フォーラム超高齢社会を生きる in 熊本〜認知症の人の思いから始めるまちづくり〜

概要

ー 熊本地震から3年 〜認知症の人と家族の安心〜 ー

2019年3月3日、ホテル熊本テルサで「フォーラム超高齢社会を生きる in 熊本」が開催されました。
2016年4月に起きた熊本地震では、多くの県民が被災。若年性認知症と診断された光嶋早代子さん(59)と夫の敏雄さんも被災しましたが、幸い自宅マンションに住み続けることができ、「環境が大きく変わらなかったことが安心につながった」と振り返ります。
しかし認知症の進行とともに今までできていたことができなくなり、まどろっこしく感じることが増えた早代子さんは「外出もおっくうになり、わがままになっていくのがわかる。それがつらかった」と打ち明けます。敏雄さんも病気だとわかっていてもイラついて、夫婦喧嘩が絶えなくなったと言います。
そんな夫婦の関係は、認知症カフェに出かけるようになったことで大きく改善。早代子さんは気持ちが切り換えられるようになり、敏雄さんも同じ立場の人と話をすることで楽になりました。(9:08)

ー 熊本地震から考える 〜コミュニティー再生へ〜 ー

熊本地震の被害が大きかった益城町では、仮設住宅から自宅に戻ることができず、孤立などのストレスから物忘れが目立つようになった高齢者も少なくありません。
一方、地域に戻ることができた高齢者も、避難によってこれまでのコミュニティーが崩れ、地域の担い手も不足するなど、さまざまな要因で不安を抱えながら生活しています。
益城町からの委託を受け、仮設団地の見守り支援を続けてきたキャンナス熊本代表の山本智恵子さんは「益城町はもともと地域のつながりが強かった地域。震災でバラバラになり、新たにコミュニティーを築いていくことの難しさを感じている」と話します。
認知症サポート医として地域を支えてきた前田淳子医師は、「とくに認知症の場合、人とつながりにくくなった喪失感が、本人や支える家族のつらさにつながっている」と指摘しました。(11:03)

ー 熊本地震から考える 〜居場所の確かな安心〜 ー

認知症の人にとって環境が変わることは大きなストレスになります。
熊本地震では自宅が全壊するなどして仮設住宅などで生活せざるを得なくなった認知症の人が不安を募らせ、介護する家族の負担も増大するといった事例が相次ぎました。
園田京子さん、紘輝さん夫妻も住んでいたマンションが全壊。娘の家に避難しましたが、京子さんは急激な環境の変化で、認知症の症状を悪化させ、介護する紘輝さんも精神的に追い詰められました。
そんな夫妻の救いになったのが、認知症カフェ「みちくさ」です。代表の矢野成美さんは、混乱している京子さんを日中カフェで受け入れ、介護する紘輝さんの負担を軽減。その後、夫婦で通うようになりました。「同じ体験をしてきた人が集まっているから、思いを分かち合える」と紘輝さん。
カフェは認知症の人や介護する家族が安心できる居場所として、不可欠な存在になっています。(12:31)

ー 熊本・天草 〜地域通貨がつながりを生む〜 ー

天草市の牛深地域にある二浦町は高齢化率が53%を超え、急速に過疎化が進んでいます。
山間部に暮らし、移動が難しい高齢者にとって、買い物は大きな困りごとの一つ。こうした問題を解消するため、6年前に「ほっと安心サポート事業」が始まりました。
社会福祉協議会が、困りごとのある人とそれを支援する人を会員登録制で募ってマッチングさせ、住民同士が支え合うシステムで、買い物や庭の手入れなどを手伝ってもらうお礼として、あらかじめ購入しておいた地域通貨(20分200円)を支援者に支払います。地域通貨は加盟店で金券として使えるため、継続的な支援を実現できただけでなく、地域通貨を通じて住民同士の新たなつながりも生まれています。
認知症カフェ・みちくさ代表の矢野成美さんは「支援のお礼を明確に定めることで、支援を頼む側も頼みやすくなるのではないか」と指摘します。
一方、前田淳子医師は「お手伝いついでに見守っておしゃべりするというのも、とても意味があること」と話しました。(10:47)

ー 熊本・あさぎり町 〜挑戦する高齢者たち〜 ー

熊本県南部に位置する球磨郡あさぎり町ではこれまで米や麦、葉タバコ、メロン、いぐさなどさまざまな農作物が生産されてきましたが、輸入品の増加や高齢化で農業人口は減り続けています。
そこで12年前から、行政主導の町おこしとして、漢方薬の材料となる薬草栽培が行われるようになりました。薬草栽培は大がかりな設備投資が必要ない上に、軽くて扱いやすい作物です。
昨年、最高齢で参入した中村雅之さん(87)も薬草栽培は初めての経験ですが、「自分が成功すればあとに続く高齢者も増えるのではないか」と期待を込めて取り組んでいます。
高齢者の挑戦に背中を押されるように、若者たちも次々に参加。「世代を問わず、自分の力を試すチャンスや環境がある」ということが、高齢化や過疎化を乗り越える希望になるかもしれません。(9:17)

【2019年7月12日公開】

出演者

光嶋 早代子(みつしま さよこ)さん・光嶋 敏雄(みつしま としお)さん

認知症当事者・家族(夫)

7年前の52歳の頃に、運転が分からなくなる、約束を忘れる、料理ができなくなるなどの症状が現れ、54歳で若年性認知症と診断される。ショックで家に引きこもるようになった早代子さん。しかし、もともと活発な性格の彼女をなんとか元気づけようと、夫の敏雄さんは妻の不安に寄り添い、認知症カフェに一緒に行くなど、楽しむ時間を作ることで、徐々に元気を取り戻し始めている。

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前田 淳子(まえだ じゅんこ)さん

まえだクリニック 院長

1988年に熊本大学第一内科入局。熊本市医師会熊本地域医療センターを経て、国立療養所再春荘病院呼吸器科に勤務。内科医として総合的に患者の治療にあたってきた。2000年に「まえだクリニック」を継承し、訪問診療など地域医療に力を注ぐ。2012年、同じく在宅医の清藤千景氏とともに在宅支援研究会「てとてとココロ」を立ち上げ、医療の枠を超え、誰もが笑顔でいきいきとつながりながらともに成長していける地域づくりを目指している。認知症サポート医。

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矢野 成美(やの なるみ)さん

認知症カフェ「みちくさ」 代表

合志市在住。2005年からケアマネジャーとして認知症の人と家族の支援に携わっている。自らも家族を介護した経験を持ち、家族として様々な集いの場に参加するなかで、2014年5月、県内初の認知症カフェ「みちくさ」を立ち上げた。認知症になっても気軽に立ち寄れる居場所にしたいと「決まりなく、自由に」 をモットーに毎週金曜日に開催。今では多くの認知症の本人と家族の拠り所となっている。認知症があってもそれまでの日常が続けられるよう支援を続けている。

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山本 智恵子(やまもと ちえこ)さん

訪問ボランティアナースの会 キャンナス熊本 代表

熊本市生まれ。2006年熊本市医師会看護専門学校卒業。2014年訪問ボランティアナースの会キャンナス熊本を発会。2016年の熊本地震により被災。その後、キャンナス熊本として益城町からの委託を受け、県下最大のテクノ仮設団地の見守り支援および管理を行う。 新たに、障がい児のためのリメイクやオーダー、エンディングドレスなどのデザインや開発を手がけている。

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野口 泰宏(のぐち やすひろ)さん

社会福祉法人天草市社会福祉協議会 牛深支所 主任

天草市在住。2008年に天草市社会福祉協議会に入局。2012年より牛深支所に配属。地域通貨券を用いた会員同士の支え合い制度である「ほっと安心サポート事業」の担当となり、事業の立ち上げに関わる。住民の困りごとに関する相談対応、会員同士のマッチング、加盟店との連絡調整などに従事。その他、成年後見センター、見守りネットワーク事業などを担当。

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福田 圭吾(ふくだ けいご)さん

あさぎり薬草合同会社 代表

球磨郡あさぎり町在住。22歳でJAくま(球磨地域農業協同組合)に入組。球磨メロンをはじめ、い草栽培の指導販売に取り組む。57歳で退職後、あさぎり薬草生産組合(現 あさぎり薬草合同会社)に入組し、2017年より現職。漢方薬の材料であるミシマサイコを栽培する傍ら、代表として高齢者の栽培管理などにも力を尽くしている。今後は若い世代も巻き込み、薬草を人吉・球磨の基幹作物に育てたいと考えている。

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町永 俊雄(まちなが としお)さん

福祉ジャーナリスト

1971年NHK入局。「おはようジャーナル」キャスターとして教育、健康、福祉といった生活に関わる情報番組を担当。2004年からは「福祉ネットワーク」キャスターとして、うつ、認知症、自殺対策などの現代の福祉をテーマに、共生社会の在り方をめぐり各地でシンポジウムを開催。現在は、フリーの福祉ジャーナリストとして活動を続けている。

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