クリップ
概要
ー クリップ 1 出演者のみなさん 認知症とのかかわり ー
2014年9月27日、奈良市のなら100年会館にて認知症フォーラムが開催されました。地域で認知症対策に取り組む3名のパネリストが参加。
長年認知症患者を診察してきた精神科医の平井基陽さんは、認知症の医療と介護について「使用できる治療薬が増え、本人の視点でケアをするなど介護も変わりつつある」と説明。明るい見通しを示しました。
二人目のパネリストは、小規模多機能型ホームのホーム長をつとめる芳野正裕さん。平井さん同様、ケアが本人中心になってきている現状を、介護事業者の立場から紹介しました。
一方、亀井明さんは介護をする「家族」の立場でパネリストをつとめます。アルツハイマー型若年認知症の妻を介護してきた11年を振り返り「発症当初の混乱期に『自分が付いているから安心して』と妻に言えなかった。そのことが最大の心残りです」と話しました。(2:46)
ー クリップ 2 認知症の基礎知識 原因疾患 ー
認知症を正しく理解し、早期発見につなげるため、精神科医の平井さんが症状や原因疾患についてわかりやすく説明しました。
まず、もの忘れは加齢とともにほとんどの人が経験する症状ですが、認知症による記憶障害とは違いがあります。「認知症は体験のごく一部だけでなく、全体を忘れてしまう。そのため日常生活に支障が生じます」と平井さん。
また脳のMRI画像を使って、アルツハイマー型認知症によって生じる脳の変化を解説。全体の6割を占めるアルツハイマー型認知症のほか、血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症など、さまざまな認知症の原因疾患と疾患ごとの症状の違いも詳しく説明しました。(5:46)
ー クリップ 3 認知症の診断 薬と効果 ー
認知症は、問診や認知機能テスト、画像検査の結果を総合して診断されます。問診では、家族など本人をよく知る周囲の人からの聞き取りが重要。
また最近は脳の画像診断が進歩し、SPECTという脳の血流を調べる画像から認知症の原因までわかるようになりました。
薬物療法では2011年に新薬が加わり、現在は4種類の薬が認可されています。薬で認知症を完全に治すことはできませんが、病気の進行を遅らせて生活の質を維持する効果が期待できます。貼り薬も登場し、治療の選択肢が広がりました。
平井さんが、それぞれの薬の効果、使い方とともに、併用できる組み合わせ、注意すべき副作用などについても詳しく説明しました。(4:22)
ー クリップ 4 薬物治療とケアによる効果 ー
認知機能は時間の経過とともに低下していきますが、認知症治療薬には病気の進行を遅らせ、生活の質を維持する効果が期待できます。
「薬をやめると認知機能が悪化してしまうことがあるので、できるかぎり薬を飲み続けてほしい」と平井さんは話します。さらに適切なケアを提供することで、認知機能の低下を抑えられる場合もあります。
また、薬には意思表示がはっきりするという効果もあることから、芳野さんは「意思表示ができるようになれば、本人が希望するケアを提供していけるはず。医療とケアの連携は重要です」とアドバイスしました。
一方亀井さんは、妻の病状や経過を紹介。認知症の初期は思いもよらない行動をとって、驚かされることも多かったといいます。(4:19)
ー クリップ 5 行動心理症状(BPSD) 本人にどう接する? ー
認知症の症状には中核症状のほかに、徘徊や暴力など「BPSD(行動心理症状)」があります。とくにBPSDは現れ方に個人差があり、介護をする人にとって大きな負担になる場合が少なくありません。
BPSDの原因は、体の状態や薬物治療による副作用、不適切な療養環境やケアなどにあり、こうした要因を取り除くことで改善できることがわかってきました。
また近年、注目を集めているのが漢方薬。認知症によく使われる抑肝散は、イライラや不眠といった神経症状を鎮める効果が高く副作用も少ないことから「高齢者も安心して服用できる薬」として期待されています。(5:27)
ー クリップ 6 パーソンセンタードケア 地域との関わり ー
以前、認知症の介護現場では介護者側の都合を優先した一方的なケアになりがちでしたが、本人の思いに耳を傾け、希望に沿ったケアを提供する「パーソンセンタードケア」が導入されつつあります。
妻を介護してきた亀井さんは「適切なケアが受けられる仕組みがあれば、本人はもちろん、介護負担が重い家族も救われる」と話しました。
また認知症の人や家族を地域で支えていこうという大塔町の取り組み「おおとう元気会議」も紹介。認知症患者が増加する中で、地域住民やボランティア、行政、医療が連携して生活を支えていくことが求められています。(4:51)
ー クリップ 7 奈良からのメッセージ ー
急速に高齢化が進む中で、65歳以上では3人に一人が認知症という時代になりました。誰もが認知症になる可能性があり、わが身のこととして考えなければなりません。
芳野さんは「施設が不足するなど、介護ではまだまだ課題も多い」と問題点を指摘。未来に向けて「認知症であることを堂々と言える社会、周囲の人にためらうことなく助けを求められる社会になってほしい」と話しました。
11年間、アルツハイマー型認知症の妻の介護を担っていた亀井さんからは「良い方向に向かっている」という明るい感想も。最後に平井さんは「今は薬などいろいろな手立てが出てきています。早い段階で医療に顔を見せてほしい」と訴えました。(2:56)
【2015年2月24日公開】
出演者
平井 基陽(ひらい・もとはる)さん
医療法人鴻池会・秋津鴻池病院 理事長 精神科医
山口大学医学部卒業。大阪大学、奈良県立医科大学精神科、秋津鴻池病院院長を経て1997年より現職。2009年より認知症疾患医療センター長を兼務。
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芳野 正裕(ほうの・まさひろ)さん
多機能型介護ホーム 芝の里 ホーム長
2008年、地域で困っている人を助けたいという思いから小規模多機能型居宅介護事業所を開設。介護福祉士、介護支援専門員、認知症介護指導者。
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亀井 明氏(かめい・あきら)さん
認知症の人と家族の会 奈良県支部 介護家族
2003年頃から妻に異変が現れ始め、アルツハイマー型認知症と診断される。現在、デイサービスやショートステイを利用しながら在宅介護を続ける。
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